業務一覧表を作成し、従業員が何の業務をしているのか正確に把握しよう(前編)

赤字企業が黒字化する上で大切なことの一つは、「従業員を会社の儲けの源泉の業務に集中させる」ことです。ところが、いざ従業員を儲けの源泉の業務に集中させようと思っても、多くの企業がうまく行きません。

・今やっている業務は○○さんじゃないとわからないため、異動させられない

・人の異動をさせたいが、皆手が少しづつしか空いておらず異動させられない

といった、従業員の活用において非効率な状況に陥っていることがほとんどだからです。さらに悪いことに、従業員が何にどのぐらい時間を取られているのか、その状況が可視化されていないという状況も同時に発生していることも多いでしょう。

ここで乱暴に「この事業部の仕事は明日からやらなくてよいから。異動してくれ」と言って強引に進めてしまうことも、社長さんがやろうと思えばできてしまいます。その結果、何も起きなければそれに越したことは無いのですが、本当に必要な業務を放置した場合には、後から火を噴くことも往々にして発生してしまいがちです。

このようなことを防ぐために必要なのは「業務一覧表」です。「業務一覧表」とは以前記事に書いた業務分担表をより詳細化したもので、従業員がどのサイクルで何の業務を行っているのかをより詳細化したものになります。

この記事では、業務分担表の作成を前提として、どのように「業務一覧表」を作っていくのか説明したいと思います。業務一覧表が出来さえすれば、少なくともどの業務にマニュアルが存在してどの業務に存在しないのかなどが明らかとなり、従業員が何の業務をしているのかをかなり正確に把握できるようになります。そのため、業務一覧表を活用して、業務の分担を変更したり、業務そのものを廃止するといった判断が可能となるのです。

<目次>

1.業務一覧表作成の勧め
 1.1.業務一覧表の構成要素
 1.2.可視化できていなくても日常困らない性質
 1.3.管理職に作らせてみよう
2.業務一覧表を完成させよう
 2.1.管理職がメンバーに指示をして内容を入力させる
 2.2.期限を決めて2週間以内に完成させる
3.業務一覧表が出来た後に考える事
 3.1.属人化しており、その人しかできなくなっている業務を明確にする
 3.2.次のアクションを計画する

1.業務一覧表作成の勧め

1.1.業務一覧表の構成要素

始めに「業務一覧表ならうちの会社でも作っているよ。」という社長さんもいらっしゃるかもしれません。実際に私も、新卒で就職した会社をはじめとして、ほとんどの企画系の部署では業務一覧を作成していました。ただ不思議だったのは、同じ会社の事業部でも、課が異なれば微妙にフォーマットや項目が異なっていたり、場合によっては業務一覧が全く活用されずに、数年前の更新を最後に放置されているという部署もありました。

こういう放置されるような「業務一覧表」ではあまり意味が無いです。最低でもマネージャーが活用して、社内の業務を割り振るために最低でも月次単位で更新されないと、実態の業務との乖離が発生し始め使えないものになってしまいがちです。

私の中で、いろいろ企業や部署で試してみたり、実際にコンサルティング先のお客様に試してもらった結果、最低限「業務一覧表」には、どういった項目を持っていればよいのか明確になりました。まずは、イメージがつきやすいように実ファイルをご覧ください。

<業務一覧表 ー 病院向けサービス事業部>

この業務一覧表は私が業務改善のために、とある医薬品販売企業のの病院向けにサブスクリプションサービスを提供する事業を精査したときに作成したものです。

まず、業務一覧表を構成する項目を名称とその中に書くべきことを順に説明します。

・サイクル・・・その業務が発生するサイクルを記載します。年次、Q次(3ヶ月~半年)、月次、週次、日時、不定期のいずれかで記載します。

・タイトル・・・【業務カテゴリ】業務名の形で記載をします。例えば年次のNO1には”【クレカ】XXXXX病院別決済額リスト作成”とありますが、これは病院向けに展開していたクレジットカード決済端末の導入事業での一業務であることを示します。

・内容・・・業務の中身を簡潔に示します。

・報告先・・・この業務の結果を社内・社外のどこに報告するのかを表します。単純にデータを取っているだけなら、”事業部管理用”のような形で後続タスクが無いことを示します。

・アウトプット・・・業務の結果具体的なアウトプットとして何に落ちるかを示します。企画系の部署の場合、必ず何かしらのデータや報告書などが作成されるはずです。具体的にどのようなファイルを作っているのかを明らかにします。

・業務マニュアル・フロー・・・その業務を実行するうえでの詳細なマニュアルやフローなどがあるかを示します。無い場合は「なし」で大丈夫です。

・現在担当・・・現在その業務をどの社員が担当しているのかを示します。

・今後担当・・・今後の業務担当を誰に移管するかを記載します。初期の段階では何も書かなくて大丈夫です。※廃止・移管などは別の記事で説明します。

「業務一覧表」は上記の構成要素を業務ごとに書き出した表になります。

1.2.可視化できていなくても日常困らない性質

冒頭で「業務一覧表」の項目が共通化されていなかったり、更新がされていないという話を書きましたが、その最大の理由は、業務一覧表が存在しなくても平常時には従業員は誰も困らないからというのがあります。

上の病院サービス事業部の例で説明すると、その部署の現場は課長職1名と4名のメンバーで運営されていました。その課長さんは自分がメンバーの時からこの事業に携わっているので、何を業務として行わなければいけないのか全て頭の中に入っています。そのため、普段は問題なく日常業務が回っている状態で、実際にこの事業部には業務一覧表は、存在していませんでした。

ただし、従業員と違って社長さん観点だと、この状態は危険です。何故ならば、

・本当にその業務は5名必要なものなのか?

・仮にその課長職が事故にあい出社しなくなった際に業務は回るのか?

・事業が伸び悩んでいてテコ入れをしたい場合、人の異動は可能なのか?

といった疑問に客観的な事実を元に答えられないからです。仮に課長にヒアリングをしたとしても「この業務は必要です」という答えしか期待できませんので、やはり従業員の業務を客観的に可視化した業務一覧表が必要になるのです。

1.3.管理職に作らせてみよう

会社が赤字の状態の際に、何もテコ入れをせず、オペレーションをそのまま継続することは緩やかな会社の死につながります。このあたりの危機感はなかなか従業員には伝わりづらいので、社長さんが業務一覧を元に判断していくというスタンスで取り組むのが良いでしょう。

なお、業務一覧表の作成自体は、管理職に作らせてみるとよいでしょう。項目さえ決まっていれば、管理職であれば現場の業務を知っている分完成させることは容易でしょう。

2.業務一覧表を完成させる

2.1.管理職がメンバーに指示をして内容を入力させる

ここからは、管理職が実施する作業となりますので、社長さんは同じ内容を管理職に指示すればよいです。

まず、課のメンバーを集めた会議などで「現在赤字のため、その解消のためにまずは業務を可視化したい」と目的を説明し、各従業員に何の業務をやっているのか埋めてもらうように依頼をします。期限は1週間を期限とし、次回の会議までに各自埋めるように指示をします。

この時に必ず注意してほしいこととして、業務マニュアルや業務フローの有無にかかわらず、無いなら無いで構わないので必ずその事業部のために行っている業務は全て書き出すようにつたえることです。

実際に例に挙げた業務一覧を作成する際に発生したのですが、業務マニュアル・業務フローが存在しない場合、従業員目線だと「上司から怒られるのではないか?」と考えてしまい、業務そのものを報告しないという現象が発生しました。そうなると業務そのものが可視化されずに、業務一覧表が意味のないものになってしまいます。

回避策として、同時に伝えることは、業務一覧表に書き出していないものは、事業部の業務としてみなさないという事です。これを伝えることにより従業員側でもとにかく携わっている業務はなにがしかを記載するようになります。

2.2.期限を決めて2週間以内に完成させる

上記を行うと1週間で制度や粒度はバラバラでも、業務が洗い出されるはずです。管理職は次の会議の場で各従業員にそれぞれ書いてきた業務の内容を説明してもらってください。

そのうえで、

・業務一覧に洗い出せていない業務

が無いかを管理職の視点で確認します。過去の経験からいうと、この時点で書かれている業務一覧表は90%~95%程度の業務は洗い出せていると思ったほうがよいでしょう。逆に言うと最低でも5%の業務は書かれていないということです。

管理職の方が思いつけばそれでよいですが、特に思いつかない場合には、

・業務マニュアルや業務フローが存在しない業務で、書き漏れていない業務はないか気になったらほかの人の業務でもよいので指摘してほしい

と伝えてください。大概会議の場で2~3個ぐらいは出てくるはずですので、さらにその担当メンバーに1週間以内にその業務を書き出すように指示をします。

この時、やってはいけない事は「業務一覧表」の完璧性を求めて時間をかけて精査してしまうことです。確かに時間をかければかけるほど「業務一覧表」の精度はあがりますが、そこまで時間をかけるのは正直労力に見合いません。何より従業員に最初の時点で「業務一覧表に書き出していないものは、事業部の業務としてみなさない」と伝えていますので、そこまでして出てこないのであれば諦めると割り切ることが大切です。

着手から早くて1週間。遅くても2種間以内に業務一覧表を完成させましょう。上の例の病院サービス事業部の場合だと、業務一覧表の作成開始から2週間以内で同事業部には以下のサイクル別の業務数があることが明らかとなりました。

<病院サービス事業部の、実施業務サイクル別の業務数>

サイクル業務数
年次3
Q次2
月次24
週次3
日次29
不定期25

3.業務一覧表が出来た後に考える事

3.1.属人化しており、その人しかできなくなっている業務を明確化する

業務一覧表が完成したら、まず最初にやるべきことは「属人化しており、その人しかできなくなっている業務」を明確にすることです。

具体的には、

・業務マニュアルが存在していない。

・アウトプットが不明確(書き出せていない)。

ものを特定していきます。

業務マニュアル等が存在しなくても、その事業部内だけであれば困らない場合もありますが、事業部の業務は他の事業の人間からすると大概意味が分からないことがほとんどです。そのため、業務マニュアルが存在しなかったり、アウトプットが不明確だったりするとほかの事業部の人員が代替することは不可能になります。

こういった分類をしていくと、上記の属人化している事象は人により偏りが出ることに気付くと思います。先ほどの例ですが、課長である相田さんが担当している業務に集中して、

・業務マニュアルが存在しない

・業務マニュアルが存在しても内容が薄く同じ事業部の人員でも内容を正確に実行不可能

であることが明確になりました。

事業部の成り立ちから、相田さんが一番古株の社員でしたので、

・相田さんが業務マニュアルを整備した業務・・・ほかの社員に渡して実行している

・相田さんが業務マニュアルを整備していない・整備途中の業務・・・自分で実行している

というパターンではないかとこの時は仮説を持ちました。この状況ですと、相田さんが業務マニュアルを整備しきれない限り、事業部のほかのメンバーや事業部外にその業務を渡すことはできないことを意味します。

3.2.次のアクションを計画する

属人化している業務が特定出来たら、次のアクションを検討します。具体的にはこの時点で業務一覧表を眺めて、以下の3種類のケースのどれに該当するのかを明らかにしていくのです。
<3種類のケース別の必要な対応>

ケース業務継続の必要業務マニュアルの存在とその制度必要な対応
ケース1有りと判断存在しており、精度も高い誰にその業務を割り振るのかを決める
ケース2有りと判断存在しているが、精度が低い
存在していない
業務マニュアルを整備する
ケース3無しと判断-(関係なし)業務を廃止する

このように必要な対応が定まったらあとはアクションしていくだけです。一時的に特別なPRJを発令して他の事業部の社員にマニュアルをヒアリングしながら作成させてもかまいませんし、これに関してはまた長くなりますので別な記事に分けたいと思います。

この記事では経営が赤字の企業が黒字化の上で必須となる業務一覧表について、その概要と作り方、完成後のアクションについて説明しました。ぜひ業務一覧表を作ることで、経営の黒字化へ役立ててください。

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