業務分担表を作成し、従業員が何に労力を費やしているのか可視化しよう

赤字から黒字への脱却を目指すうえで、まずやらなければいけないのは「従業員が何にどれだけ時間を使っているのかを把握すること」です。なぜなら、従業員の時間の使い方の把握ができていないと、業務効率化をしようにも、何にどれだけどこから手を付けるべきなのか確認ができず、場当たり的な対応になってしまうからです。今回は、「業務分担表」という簡単なエクセルのフォーマットを利用して、具体的にどのように完成させていくのか、ステップごとに紹介したいと思います。

ところで、現在社長さんは従業員が何をどれだけやっているのか月次単位で把握されていますでしょうか?おそらく「まぁ大体のことはわかっているよ」という方がほとんどだと思います。その上で、もう一歩深堀して、例えば「営業部門」「総務部門」「物流部門」などの特定の部署を想定した際に、「どの社員」が「どの業務」に「どのぐらいの時間」をかけている・・・という形まで把握できていますでしょうか?おそらく、ここまで詳細に把握できている社長さんは、なかなかいないと思います。

逆にいうと、ここで紹介する「業務分担表」を完成させることで、従業員の業務の可視化が可能となり、社長さんが従業員の業務の詳細把握が可能となります。ここまでして初めて黒字化するうえで必要な、業務の廃止や外部化(アウトソーシング化)などの検討が可能となります。

この記事は、実際に私が作成した「業務分担表」を事例として取り上げながら、どのように従業員の業務を可視化していったのか、またそれを利用してどのような検討行っていったのかを、事例としてどの会社でも共通の人事総務などのバックオフィス部門を例に紹介したいと思います。

目次
1.業務分担表作成の勧め
 1.1.業務分担表の構成要素
 1.2.可視化できないものはNG
 1.3.社長さんが手を動かすことが大切
2.業務分担表の完成させる
 2.1.管理職と1対1で確認する
 2.2.グループメンバーがいる場で確認をする
3.業務効率化の対象を策定する
 3.1.おかしなところ・変なところを明確にする
 3.2.対象人員・タスクを特定する

1.業務分担表作成の勧め

1.1.業務分担表の構成要素

まず「業務分担表」とは、特定の部署の従業員が、どの業務にどれだけ時間を費やしているのかを具体的に目に見える形にするための表の事を指します。

そう聞くと、「従業員の行動をストップウォッチなどで測定しなければいけないの?」という、ギチギチのイメージを思い浮かべるかもしれませんが、そこまで厳しいものではなくもっと簡易なものです。実際にホワイトカラー業務の場合、あまり細かく分けすぎてもノイズとなってしまい意味がなくなるので、どんなに細かくしても半日単位(通常は1日単位)で月にどれだけの業務を費やしているのかを従業員ごとに明確にするための表となります。

「業務分担表」がどのようなものか、実際に私が人事総務部で作成した表になります。

※なお、目次の3.2までが終わりいったん完成した状態です。

<人事総務部の業務分担表>

横軸は人を配置しています。

人に関しては

・所属部署・・・どの課に所属しているのか

・拠点・・・どの拠点にいるのか(※一つしか拠点がない場合は不要です)

・役職・・・正社員の場合は課長・主任(リーダー)・平ぐらいの分類。また、正社員以外は時給制社員や派遣社員などの区別。

・総合計・・・縦軸の工数の合計。普通に働いている社員であれば合計が”100”。時短勤務の社員の場合は合計が”80”としておく(実際の月間労働時間に換算し変化)。

などの要素があります。

一方、縦軸には業務を配置しています。黄色の箇所は日常ルーチン業務の大枠です。例えば人事・総務課だと

・採用・・・新入社員・中途社員・派遣社員・契約社員の採用

・人事労務・・・給与振込処理、人事を反映しての生命保険・確定拠出年金の掛け金の変更処理

・研修・・・入社者の導入研修、英会話研修

・総務・・・取締役会・株主総会の運営、庶務業務、損保契約

などの業務が存在しています。もちろん会社ごとに中身は異なるでしょうが、最小粒度で半日単位となるように表記されています。そして、橙色の箇所はルーチンでない改善系の業務などを、灰色は管理系(管理職とのミーティングやチーム会など)のタスクを書いています。

このように横軸に従業員・縦軸に業務を書くことで、後は表のFMTに沿って、それぞれの担当者の月の業務割合の数字が記載されています。例えば一番上の正社員採用業務には、

・蓮沼:5、相田:30、井岡:45

とあります。

これは、月の稼働日数を20営業日と置いた場合に、それぞれ

・蓮沼:1日(8時間)、相田:6日(48時間)、井岡:9日(72時間)

の時間を費やしていることを示します。

※フォーマットはこちらで無料公開しておりますので、そのまま利用したい場合は是非ご活用ください

https://www.bizocean.jp/doc/detail/533446/

1.2.可視化できないものはNG

企業の中の部門の役割として、大きく

・お金を稼ぐためのフロント部門

・フロント部門を支えるバックオフィス部門

の2種類に分かれます。そして、フロント部門には企業内のエース級の人材を数多く配置する必要があります。一方、バックオフィス部門は少ない人数で、契約社員・派遣社員・時給制社員などの力を借りながら効率よく、ミスがないように回す必要があります。その後者のバックオフィス部門の改革をするときにこの業務分担表は特に重要となってきます。

ここで例として出している人事課・総務課には、社長から「とにかく重大ミスが多発しており、組織コンディションが悪化しているので立て直しをしてほしい」ということで、半年間と期限を決めて在籍しました。私の前任の課長は人事労務など自ら手を動かしており、改善のための仕事などは何も取り組んでおらず、課長がルーチン業務だけを行っている状態でした。それはまだ許せるのですが、まずいのはその状態が可視化されておらず、「人事課・総務課」が何をやっているのか、社長も他の管理職も誰も理解できておらず、何故ミスが多発しているのか誰もわからない状態ということでした。

社長さんの観点としてはバックオフィス系業務は売上を上げる部署ではないため「まぁ適当に回しておいてよ」と思うかもしれません。ただそうなってしまうと「適当に回しておく」事さえできずに、バックオフィス系の部門は、どんどん組織コンディションも悪化し、日常のアウトプットレベルも低下していきます。そして会社が赤字になった際には、何も改善策なども提示できずに会社の金喰い虫のようなお荷物部署となってしまいます。そうならないためにも「部署でどのような業務をどのような人がどのような割合で実施しているか」というのを「業務分担表」を作って可視化しておく必要があるのです。

企業が赤字になっている原因の解消策として「費用を削減する」というアプローチをとることは、当社が得意とするテーマでもありますが、このテーマは突き詰めていくと、多くの企業が人材をうまく配置・活用できていないため、無駄な部署に無駄な人材をおいているという点に行きつくことが多いです。年600万円の経費を下げるためには、いろいろな費用削減を積み上げる必要があります。一方、社会保障も含めて年収600万円換算の社員1人分が辞めても問題ない体制の構築は、こういった業務分担表を活用することで非常に容易に実現できます。

1.3.社長さんが手を動かすことが大切

この「業務分担表」を、まずは社長さんが手を動かして作ってみてください。こういうと「管理職がやるべきことでは無いか?」と感じられる社長さんもいらっしゃるかと思います。

結論から言ってしまうと、管理職がこういった単位で部下の職務を管理できている中小企業はほとんどありません。管理職自身も把握していないのです。そして、業務分担の割合などを視覚化しないからこそ、どんどん業務が足し算方式で積みあがって止められなくなっており、生産性が悪く赤字の大きな要因になっていたりもするのです。

社長さんが業務分担表をわからないなりに工夫して作ることで、管理職にも「これはちゃんと取り組まないとまずいな」という意識が芽生えます。まずはそのためにも社長さんに作っていただきたいのです。

社長さんが作るときにはまずは30点版を作るぐらいの気持ちで大丈夫です。この際に、いきなり課長やメンバーなどにこの仕事を投げたり・相談したりしないよう注意してください。実際にいきなり管理職などに投げると「俺の部署はこれだけ大変なんだぞ!」という意味のない自慢合戦と、細かすぎるレイヤーで業務を切り出してきたりすることなどが、往々にして発生してしまうからです。

「そうはいっても、興味もないし良くわからないが。。。」という場合でも大丈夫です。まずは縦軸の業務でいえば黄色の箇所を埋めるぐらいの感覚で着手してください。もちろん、わかれば上記の詳細業務まで書いてもらっても大丈夫です。

社長さんとかかわることが多い社員の業務はよくわかるなど、担当者による濃淡はあると思います。この例でいうと、人事課の相田さん(主任)は取締役会・株主総会の仕切りをしているので、その業務内容はよく理解できるでしょう。一方で、日常で接する機会のない同じ人事課の静岡にいる井岡さんの業務はよくわからないでしょう。

最初は、必ず各自の業務合計が100(時短社員の場合には80)になるように業務と分担割合を、その部署の管理職やその社員には相談せずにまずはあてずっぽうでも良いので埋めてみてください。ひとまず埋めることが出来たら、次のステップに移り、この業務分担表の精度を上げていくのです。

2.業務分担表を完成させる

2.1.管理職と1対1で確認する

一度社長さんが作った業務分担表の30点版を最終的に80点版にまで高めていきます。80点版とはメンバーが見て「細かい箇所はいろいろありますが。総合して違和感は無いです」というレベルです。最初に断っておくと、この資料は100点版を目指さないでください。100点版を目指すと、各メンバーへの個別にヒアリングなどが必要になり、しかもそれが事実かどうか検証をしないといけないなど、非常に手間がかかるためです。80点版から100点版を目指すことは、0点版から80点版を作る手間の5倍~10倍ぐらいかかりますので、そこまで時間を使う必要はありません。

30点版から80点版を目指す最初のステップは、業務分担表を管理職と確認することです。この管理職とのレビューで70点版ぐらいに仕上げるイメージです。

まず、管理職との1対1の会議を1時間設けます。会議の目的は「業務効率化のために、まずは貴方の部署の業務を可視化したい。資料の確認に協力してほしい」としっかりと伝えましょう。くどいですが、この時点では管理職以外の他のメンバーをいれないように注意してください。業務分担表の精度を上げるのが目的ですが、管理職がどの程度自部署の管理組織の仕事を理解しているのかも、ここで確認しておくためです。

実際に会議の場では以下の順番で確認するようにしてください。

確認ポイント1.縦軸の業務に関して、他に行っている業務があれば洗い出してもらう。「足りないものはある?」と聞いたら、おそらくぴったり縦軸は不足なく洗い出してくれるはずです。注意すべき点としては詳細化しすぎないということです。例えば先に出した業務分担表の場合、「月給」という業務はさらに細分化していくと、

・人事データのマスター更新:人事の昇格・降格が無いかを確認し、基本給・役職手当の変更を行う。

・人事マスターの送付:(外部の)給料計算事務所に上記マスター情報を確定させ、送付する

・給料情報のチェック:給料給与計算事務所が算出した給料予定額をチェックし、基準額や残業代に誤りがないか確認する。

・振込用CSV生成:給料予定額より振込用CSVをアップロードする

・振込処理:みずほの法人ネットバンキングで給料支払いデータをアップロードする

・経理連携:経理部に今回の給料情報の勘定科目別のデータを作成し、連動する。

のようにもっと細かくすることも可能です。ただここまで細かくしてしまうと業務が塊でとらえられず議論が発散していってしまいます。なので、この場合は「月給」というブロックのママにしておくのです。

確認ポイント2.業務の割合を精緻化してもらう。おそらく現場の管理職が見れば「この業務は○○%ぐらいかな?」とある程度の予測はできるはずです。その内容の確認をしてください。これは1日8時間を5%単位を最小(どうしてもという場合には2.5%単位)で修正してもらいましょう。おそらく社長さんの事前予測とだいぶ異なった比率になるはずです。

打合せの中でパソコンを見ながらそのまま修正していくような形で行きましょう。ある程度まともな管理職がやればこの時点で、70点版程度のものが出来上がるはずです。

2.2.グループメンバーがいる場で確認をする

次に70点版から80点版に引き上げるために、グループメンバーがいる場で管理職と一緒に資料を確認しましょう。この場合はグループメンバーが全員いる場で行いたいので、グループ会などに30分ぐらい時間を取ってもらえれば十分です。

さきほどもいったように、個別の社員と個別MTGでこういった業務分担表の確認は確認しないでください。個別に確認すると「あれもやっている。これもやっている。。。」と発散しやすいのですが、さすがにグループ全員がいる場で変な主張をする社員というのはそこまで多くありません。抑止力が働くことが期待されるからです。

社長から目的を共有した後は、後は管理職手動で「この数字違うよという人がいたら教えてくれ」とその場で各人に確認していくような形をとってもらうのが良いです。5%(1日)単位という数字の基準だけ伝えておけば、あとは違うのを言ってもらうだけでよいです。

そして打ち合わせの最後には社長から「皆さん今日はありがとうございます。今後業務の改善や効率化を取り組むうえでの基礎として使わせてもらいます」と言っておけば完璧です。これにて80点版の業務分担表が完成です。

3.業務効率化の対象を策定する

3.1.おかしなところ、変なところを明確にする

80点版の業務分担表が出来上がったら、明らかにおかしなところ、またはおかしくは無いが違和感を感じたとところを上げていきましょう。例えば先ほど、私の実際の部署の業務分担表で社長さんは何か感じられましたでしょうか?

<80点版業務分担表・・・疑問点の洗い出し中>

例えば私は80点版を作成した時点で、以下が腑に落ちていませんでした。

明らかにおかしいところ

・総務課・加藤さん「総務ー薬事業務:80%」・・・業界紙を読んでチェックをして回覧をしているのと、ネットで何かを申請しているぐらいしかしていないはずだが、何故ここまで工数がかかっているのか?実際には仕事が無いのではないか?

・総務課・緒方さん「総務ー庶務業務:50%」・・・電話に出るのと郵便や宅急便のやり取りなどをしているぐらいだが、それでここまで工数がかかるのか?

・総務課・緒方さん「総務ーその他もろもろ:25%」・・・庶務業務にも分類されない「その他もろもろ」とは何か?

・人事課・井岡さん「総務ー庶務業務:40%」・・・人事の仕事が無い部分を庶務業務として対応しているのではないか?実際には仕事が無いのではないか?

違和感を感じたところ

・共通・蓮沼「全般」・・・ルーチン業務をやるのはもったいないので、もっとルーチン業務を部下に振れないのか?

・総務課・緒方さん/人事課・井岡さん・・・人事の給与計算の例を見ると、派遣社員や時給制社員に置き換えても回る業務ではないのか?社員がやるべき業務か?

などいろいろ出てきます。

この時点では、明らかにおかしな業務のところを色(=この場合は紫色)にしておきます。

この情報をもって再度管理職と会議を持っても良いです。納得のいく説明があるかもしれませんし、無いかもしれません。また管理職の視点で気づかなかった観点でも「おかしい」と思っていることを洗い出してくれるかもしれません。

3.2.対象人員・タスクを特定する

ここまで出来たら、最後に何とかすべき対象人員・タスクを特定します。

まずは明らかにおかしなところか検討をしていくことになります。

この場合でいうと、

・総務課・加藤さんの薬事業務(80%)

・総務課・緒方さんの庶務業務(50%)・その他もろもろ業務(25%)

・人事課・井岡さんの庶務業務(40%)

が対象になりました。

この業務を紐解いて

・業務をやめる

・業務を移管する(外部)

・業務を他の人にやらせる

をこの後のプロセスで決定していくことになります。

今回は経営の赤字から黒字化への転換で必須となる業務分担表について、その概要と完成させるためのプロセス、評価の仕方などを確認しました。ぜひ社長さん自ら業務分担表を作成し、経営の黒字化に向けて活用してください。

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