業務一覧表を作成し、従業員が何の業務をしているのか正確に把握しよう(後編)

企業を赤字から黒字化するうえでは、従業員をコア業務に集中させることと、その前段階として従業員がどのアウトプットをどのサイクルで作成するのかを可視化する業務一覧表の作成が必要になることは前編で述べました。

業務一覧表が完成した後は、従業員をコア業務に集中させるために、やめる業務と・移管する業務を明確にしていきます。大きくは以下の2つに分かれます。

・業務をやめる・・・取り組みそのものを止めたり、一部のプロセスを無くすことで担当が行う業務量を減らす

・業務を移管する・・・業務自体はやめないものの、行っていることを内部の他の部署や・外部にアウトソースすることで担当が行う業務量を減らす

この記事では、どういう判断基準でそれを実行していくのか説明したいと思います。

<目次>

(前編)
4.業務をやめる
4.1.基準1ー事業部内で完結している業務
4.2.基準2ー目的が実態と合わない業務
4.3.業務をやめるのは社長にしか決断できない
5.業務を移管する
5.1.コア出ない業務を移管する
5.2.業務を移管するのは社長にしか決断できない
6.事業部を適正配置にする
6.1.事業に必要なメンバーに絞ろう
6.2.異動先が無いメンバーの対処

4.業務をやめる

4.1.基準1ー事業部内で完結している業務

まずは業務一覧表を見ながら、業務そのものをやめることを検討します。

その判断基準の一つとなるのが、アウトプットが事業部内でしか活用されていない業務です。前編で利用した医薬品販売企業のの病院向けにサブスクリプションサービスを提供する事業を精査した際の、業務一覧表の年次業務を例にとって説明します。

<業務一覧表 ー 病院サービス事業部の年次業務>

年次業務NO3の”【でんき】病院別利用料金リスト作成”を見てください。この業務は、1年間の新電力の契約をしてくれた病院別の電気代の売上をリスト化するという業務です。この報告先を確認すると、事業部管理用となっています。つまりこの資料は事業部内でしか資料が活用されないのです。このような部内で完結しているような業務は、どんどん廃止していく候補だと思ってください。何故なら事業部内に閉じた業務の場合、実際は不必要な業務を精査せずに行っている場合が非常に多いからです。

普通に考えると、病院別の売上などは、売上が上がるタイミングかその前後でこの事業部内の誰かが受注登録をしているはずです。そうなると売上情報などはわざわざ集計しなくても、見たいときに、期間を指定して売上管理のシステムからCSVなどで抽出すればよいだけなのです。そのため、この業務は不要と判断できます。

百歩譲って、何か分析をするなどで売上情報に何かの情報を付加しているのであればわからなくはありません。ただし、アウトプットを見る限りそのようなものでもなさそうでしたので、このような業務は廃止対象として分類しました。基本的には事業部内で完結するような業務は、やらなくても他の事業部に何の影響も与えないですので、そういった観点で確認していきましょう。

4.2.基準2ー目的が実態と合わない業務

もう一つの基準となるのが、目的が実態と合っていない業務です。例えばNO1の業務を見てみましょう。”【クレカ】XXX病院別リスト”とあり、この会社が仲介しているクレジット端末の病院別の決済額をまとめた資料です。報告先を見ると事業部管理用ながらも、クレジットカード端末を運営しているXXXファイナンスという会社との仕切値の交渉に利用していることがわかります。これは一見必要そうな業務に見えます。

すこし、イメージしづらいかもしれないのでこの業務の仕組みを説明すると、例えば美容整形の病院で税込100,000円(※保険適用外)の手術を受け、支払いをクレジットカード払いでしたとします。この時整形手術を受けた人は100,000円を支払いますが、この際クレジットカード会社のXXXファイナンスは売上の3%の3,000円を手数料として取り、お店には97,000円がXXXファイナンスから現金として入るような仕組みになっています。クレジットカードを使うたびに手数料が発生(この場合は3%)しており、それを病院側が負担しているのです。そのXXXファイナンスの取り分の手数料3,000円のうち、1,000円をこの会社がもらうようなビジネスモデルとなっていました。

当然ながら、手数料が低ければ低いほど病院はうれしいのですが、病院が個々でXXXファイナンスと交渉しても、決済額などたかが知れていますのでうまくはいきません。そのため、間に入っているこの会社が各病院の決済の実績を元に、XXXファイナンスとあたかも集中購買のような形で相手の取り分の手数料を下げるように交渉するということが、NO1の業務を始めた目的でした。

ところが話を聞いてみると、病院に対してもクレジットカード端末の導入実績が少ないため、実際には交渉しようとしても料率改定の土俵にすら乗っていないことが明らかとなりました。この時点で病院へ導入したのは全国で約200病院と実績があったものの、少なくとも料率改定の土俵に立つのは2,000病院ぐらいないと無理との事。これだと目的に照らし合わせると、そもそも資料を作る意味がありません。

このように業務内でも、当初の目的と業務の実態と合っていないということは往々にして起きえます。このような場合は業務をどんどんやめていきましょう。

4.3.業務をやめるのは社長にしか決断できない

やめる業務の候補をあげていった場合、その部署の課長などの管理職はどのように感じるでしょうか?素直に業務の削減を受け入れられる管理職は稀で、普通は何かにつけ理由をつけて業務の存続を指向するはずです。なぜならそうしないと、自分の部署に従業員を置いておけなくなり、最悪は部署そのものが消滅してしまうことにつながって自分のポジションが無くなってしまうからです。 

これに関しては、社長さんの意識と従業員の意識で絶対に折り合わないところです。社長さんからすると、赤字をまずは解消したく黒字にしたいですし、その達成のためには組織はその時の状況で自由に作り替えればよいというのが本音です。一方、従業員とくに管理職目線だと、自分の担当している部署そのものや管理職のポストが無くなったりしないか、あるいはポストが存続してもプレイヤー的な業務が増えないかなどの方が心配なのです。

なので、こういった業務をやめたりするのは社長にしか判断できません。管理職などに話を聞くと確実に業務の存続を希望していくので、基本は話を聞かずに廃止を前提として進めましょう。

実際にこの例では、

・NO1&NO3・・・完全廃止

を決定しました。

ただし、あまりにも頭ごなしに業務をやめていくと管理職のモチベーションを下げることにもつながります。なので、「一度やめてみて、どうしても必要になったら復活しても良い」ぐらいに管理職に話はしておくようにしましょう。ただ基本は先ほどにも書いたように従業員が社長と同じ危機意識を持つのは正直無理と割り切って、心の中では「可能な限り業務を削っていく」という方針は社長さんの中で持っておいてください。

年次業務の例で説明しましたが、同じようなやり方で、Q次・月次・週次・日次・不定期業務も同じような観点で廃止を決定します。特に月次以降となるとそのための業務工数も増えてきますので、より廃止のインパクトが大きくなってきます。

5.業務を移管する

5.1.コアでない業務(ノンコア業務)を移管する

やめる業務を決めた後は、次に移管する業務を決定します。これは、続けていく必要がある業務だけれども、わざわざその部署でやる必要はないという業務を内部の他部署や外部アウトソーシング先に移管していくことを指します。

大前提は「その事業部のコアでない業務はすべて移管する」という考えよいです。たとえばこの病院サービス事業部のコアは何か?と考えると

・病院向けのサービスを新しく開拓する(企画)

・病院に導入する(マーケティング~営業)

と定義することが出来ます。逆に言うと、上で書いたことに関連しない業務は移管していい業務と言えます。

上の画像で出した年次業務のNO2・でんきの契約更新メールを送るという業務を例にとって考えてみましょう。例えば、病院の契約更新の確率を上げるためにメールの文面を考えるという業務はこの事業部でやるべきこと、つまりコア業務と言えます。一方、データを抽出してリストを作って決まったメール文面を送るという業務はどうでしょう?むしろこういった業務は定型化されたルーチン業務となるので、オペレーション系の部署の方が得意なはずです。この部署でやる必要も無いので、ノンコア業務と言えます。

このようにノンコア業務と判断したものはどんどん他部署に移管していきます。ちなみにこのような判断をするためには、手順をマニュアル化しておくことが前提となります。マニュアル作りのポイントなどは別の記事で述べますが、マニュアルさえきちんとそろっていれば、ほかの部署に出すという動きができるのです。

5.2.業務を移管するのは社長にしか決断できない

業務をやめる判断の時にも書きましたが、業務を外に出すことを歓迎する管理職はいません。基本的には業務をやめるときと一緒で業務を社内・社外に出すことは、自分たちの部署の力を弱めることにつながるからです。

また業務を受け入れる側の部署にとっても、部署の仕事が増えることに完全に歓迎というわけでもありません。基本的に忙しい中で、人員増強などもなくほかの部署の業務を受け入れるとなると、受け入れ部署の管理職も「自分の部署は暇だと思われているのではないか?」と不安を感じます。そのため業務の受入などを要請すると、ポーズ的に「うちの部署も余裕が無いので、、、」と反対されるかもしれません。

このような部署間の業務移管は社長にしか判断できません。業務をだす方の部署・業務をうけいれる部署の両方ともに、会社全体の方針を立てて業務を振り分けることができるのは、会社全体を見ている社長にしかできないからです。

なお、業務の移管は内部に移管するのであれば経理・総務などのバックオフィス系を実施している部署に移管すると良いでしょう。このような部署では業務の性質上「ミスなく・決められたことを・決まったタイミングで実行する」というのが得意です。もちろん本来では上記のような事業部の業務は、経理や総務のやるような仕事ではないですが、会社が赤字の時にはそのようなことを言っている余裕はありません。経理や総務の管理職にも事情を説明して協力させるようにしましょう。

6.事業部を適正配置にする

6.1.事業に必要なメンバーだけに絞ろう

病院サービス事業部で、業務をやめる・業務を移管していった結果は以下の通りとなりました。

<精査後の業務数 ー 病院サービス事業部>

サイクル業務数廃止業務移管業務事業部残業務
年次3210
Q次2020
月次2410140
週次3021
日次294205
不定期254318
合計86204224

結果としてですが、病院サービス事業部の業務を約3/4程度減らす(残ったのは1/4)ことが出来ました。42の業務はバックオフィス系の部署で引き受け可能なことがわかり、実際にマニュアルの整備等含めて3ヵ月と期限を決めて移管をすることが出来ました。 病院サービス事業部に、残ったのは手順化できないような企画業務や営業系の業務のみとすることが出来ました。

その時点で事業部に必要な人数を再検討するのです。このとき残業務の業務量からメンバーが1人いれば業務実施可能なことがわかりました。この時はこの部署の課長が一番業務が長かったので、一人でサービスを開拓して一人で営業をすることができれば、あとの人員は不要と判断できましたのです。そのためまずは課長を残すことにして、他のメンバーは異動を検討することにしました。事業部に必要が無くなった4名のメンバーのうち、3名はパワー増を希望している部署があり、かつ受け入れ先の管理職もぜひ来てほしいとのことだったので、本人の適正も考慮してそちらへ異動させることができました。

3.2.異動先が無いメンバーへの対処

こうして課長1名とメンバー1名が残りました。ただし業務量としては1名分の業務しかないのです。本来はメンバーの1名(営業職でした)も移動させたかったのですが、他の部署からは引き取りたいという部署がありませんでした。こういった場合は無理に異動させても受け入れ側の部署側で人員が無駄に増えますので、事業部にとどめるようにします。

この時点で残ったメンバーに対しては、本人に退職勧奨を行うことになります。実際にこのケースでも本人に正直に現状を伝えて退職勧奨を行いました。退職勧奨の金額の決定方法や退職方法などについて法律論的な話もあるので割愛しますが、この時には、

・事業部の業務は1名いれば充分であること

・受け入れ先の部署も無く、他の事業部の構想にはないこと

・退職勧奨はまだしないが、このままいても単純に赤字なので事業部の粗利を増やしてほしいこと。

・このまま改善されなければ半年後に退職勧奨を行うこと

などを伝えました。ポイントは期限と現状の評価を文章に落としてきちんと伝えることで、社長と本人の認識を揃えかつそれを証拠として残しておくことです。この時には結果としては本人がもう長くいれないと思ったのか、この話から3ヶ月もしないうちに自己都合退職を申し出る形となりました。

今回は、業務一覧表を利用して、業務の廃止・移管の具体的な実行例とその後の体制の作り方を個別のエピソードを交えながら説明しました。ぜひ参考にして赤字から黒字への転換を成し遂げてください。

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