業務分担表を利用して、従業員の業務を効率化しよう(業務をやめる・移管する編)

企業経営を赤字から黒字化するうえでは、従業員が何にどれだけ時間・労力を使っていることを明らかにすることが大切かを「業務分担表を作成し、従業員が何に労力を費やしているのか可視化しよう」という記事で述べました。実際に業務分担表が完成すると従業員が何にどれだけのパワー・時間を使っているのかが数字で明らかとなります。

今日ご説明したいのは数字で明らかになった後の次のステップです。それは、業務分担表を作る中で感じた、明らかにおかしなところ・違和感を感じたところに着目して、実際に業務の内容をヒアリングし業務をやめたり、外部に移管することを判断していくことです。

今日は、最終的に業務分担表の完成後にどのようなプロセスで、業務をやめる・移管するを判断していくのかをこれまた私が実際に具体的に体験したケースを元に説明したいと思います。業務をやめる・移管すると書きましたが実際に行う内容は大きく以下となります。

・業務をやめる・・・取り組みそのものを止めたり、一部のプロセスを無くすことで担当が行う業務量を減らす

・業務を移管する・・・業務自体はやめないものの、行っていることを外部にアウトソースすることで担当が行う業務量を減らす

どちらを行うにせよ、最終的には社員が実施する業務量を減らすことを目的としています。

<目次>
1.業務をやめる
 1.1.価値を生まない業務の検証
 1.2.アウトプットに対して活用がされていない
 1.3.業務をやめるのは社長にしか判断できない
2.業務を移管する
 2.1.必要だけど社内でやる必要が無い業務の検証
 2.2.外注化したほうが圧倒的に安い
 2.3.業務を移管できるのは社長にしか判断できない
3.削減工数を活用する
 3.1.改善系の仕事、手を付けられていない仕事を任せること
 3.2.状況を必従業員に通知の上、全員に共有すること

1.業務をやめる

1.1.価値を生まない業務の検証

業務分担表を作成し、明らかにおかしい箇所・違和感を感じる箇所が特定出来たら、その中身を従業員や管理職に確認していきましょう。 「業務分担表を作成し、従業員が何に労力を費やしているのか可視化しよう」 の「3.1.おかしなところ、変なところを明確にする」というプロセスで、私自身が「明らかにおかしい」と疑念が生じた業務に関して、紫色でチェックを付けていたことを述べました。

<疑念を抱いた業務例※赤カッコは本記事で説明予定>

ここでは、一番右の列の80%の業務割合となっている「薬事」業務に対してどのようにして「価値を生まない業務」を明確にしていったのかを説明したいと思います。ちなみに薬事業務とは、医薬品関連業以外の社長さんにはなじみがないかもしれませんが、医薬品を販売する企業であれば必ず取得しておかなければいけない都道府県の登録免許に関連する業務を指します。一例をあげると、劇薬などを取り扱っている場合「劇薬は、必ずカギのかかる個所に保管されており、その管理の出荷時の梱包も薬剤師が実施しなければいけない」「劇薬を販売した病院より譲受ハガキを受領し、そのハガキを会社側で5年間保管する」など細かい手続きが定められています。これらをいい加減に行っていた場合、登録免許が更新されない仕組みになっているため、薬事業務というのは定常運用として見込んでおく必要があったのです。

実際にこの業務は加藤さんという定年後再雇用の方が担っていたのですが、まずは本人に話を聞いて、その業務内容を確認することから始めました。そうすると加藤さんは薬事業務で大きく以下の3種類の仕事をしていることが明らかとなりました。

<加藤さんの80%の工数を使う薬事業務の詳細>

分類概要内容日常内訳
薬事業務1薬事トレンドの社内広報 薬事トレンドなどを業界紙から情報をピックアップして重要そうな箇所にマークを引く。その内容を組織長以上に回覧 50%
薬事業務2薬事研修の企画・実施(従業員教育) 薬事の意義や業務内容などを入社社員に対して説明 5%
薬事業務3 行政(東京都)への薬事の確認・申請 薬物などを取り扱う物流倉庫の配置やレイアウトが変更になった場合に、業許可を出している都道府県(東京都)への申請有無の確認や、実際の役所への書類の作成 25%

このうち会社として必須で行わなければいけないのは薬事業務3のみであることが、ヒアリングの結果わかりました。薬事業務3の申請・対応を誤ってしまうと最悪の場合、業許可が取り消しになるので、この当時の会社の医薬品の売上・粗利に占める会社への貢献(おおよそ年間約20億円・粗利ベース5億円)を考えるとそれだけは避けたかったので、いったん手を付けるのは無しと判断しました。

そして、薬事業務1・薬事業務2らが、「価値を生まない業務」であるか検証を行う対象となりました。

1.2.アウトプットに対して活用がされていない

「価値を生まない業務」を判断する際には、その業務が

・何をインプットとしてその業務を開始するのか(観点1)

・何をアウトプットとして出すのか(観点2)

・アウトプットはどのように利用されているのか【アウトプットの目的は何か】(観点3)

という3つの観点で検討することが大切です。

薬事業務1・薬事業務2に関して上記3つの観点をヒアリングをすると以下のように整理することが出来ました。

薬事業務1薬事業務2
観点1『月刊薬事』(株式会社じほう)が発行する雑誌人事課より研修が設定されたらその情報を元にスケジュールを確保する
観点2『月刊薬事』の記事の一部を印刷して、マーカーで線を引きファイルしたもの研修を実施するという行為
(資料に関しては基本、同じ資料を使いまわし)
観点3組織長以上に薬事に関するトレンドを知らせるため新しく入社した人が薬事に関する重要性を理解するため
薬事業務1と薬事業務2の分析

ここまで明らかにしたら、観点2と観点3が本当に結びついているのか効果を検証します。

薬事業務1に関しては、実態として組織長以上は「知っておけばベターだが、知らなくても影響は全くない」という事実が明らかとなりました。一方、薬事業務2に関しては「医薬品を扱う部署の社員に関しては知っておくことが必須だが、それ以外の部署は知っておけばベター」であることが明らかとなり、医薬品を扱う部署の従業員にとっては、物足りない内容であることも明らかとなりました。

2つとも、観点3で目指すアウトプットの活用の目的がアップデートされておらず、現状観点2のアウトプットが目的に合致しないことが明らかとなりました。

1.3.業務をやめるのは社長にしか判断できない

ここまで調べたら、後は社長にしかできない仕事をします。それは「業務をやめる」という判断です。

もちろん「何も価値を生まない」業務など会社内にはそうそう存在しません。これ以外の他社も含めていろいろな事例を体験していますが、現場で改善活動をしても10人中10人が「これは無駄だよね・やる必要はないよね」という業務は存在しないのです。

大概の業務はそこまではいかない

・一部の人には役に立つが、他の人の役には立たない

・目的を適切に達成できない

のような、判断が難しい業務が多くを占めるのです。

そしてこういった業務をやめるという判断は社長さんにしか実施できません。黒字の状態であれば「役には立っているし、ちょっと改善して続けても良いか」と判断を先送りもできます。ただし、赤字に苦しんでいる社長さんの場合、こういった業務を放置することは会社の滅亡につながります。いつやめるのか?という判断は社長にしかできないのです。

また従業員の立場から考えてみましょう。「自分の行っている業務をやめても良い」と従業員から申し出ることはまずないと思ってください。世の中の従業員の大半は、それよりも業務が無くなることで自分が必要ないと判断されるほうが怖いからです。。社長さんの立場からすると、社長の持っている危機意識の少しでも理解をして自発的な行動をしてほしいところですが、従業員は会社の存続よりも自分の仕事を守るという事を優先します。

実際にこの例では、社長に確認を行い

・薬事業務1・・・完全廃止

・薬事業務2・・・存続(改善することを前提として)

を決定しました。これで結果としては薬事業務1に関する50%が削減できることになりました。このように業務を一つ一つ検証していき、「価値を生まない」と判断をしたら業務をやめていくという決断をしていきます。

2.業務を移管する

2.1.必要だけど社内でやる必要のない業務

次に業務としてはやる必要があるが、社内でやる必要のない業務というのを明確にしていきます。

先ほど赤で囲んだ庶務業務というのもここで説明する事例に当てはまりました。

庶務業務も同じように担当をしていた緒方さんに確認をしたところ、大きく以下に分類が出来ました。

<緒方さんの50%を使う庶務業務の詳細化>

分類概要内容日常内訳
庶務業務1 電話対応 外線としてかかってくる代表電話への対応。会社案内や事業別の回線を保有していない部署の電話番号には代表電話番号が記載されているのでその電話への応答対応 30%
庶務業務2 郵便・宅急便業務 1日に1回郵送ボックスにたまった郵便物をポストへ投函するのと、佐川・ヤマトの集荷対応 5%
庶務業務3 社内必要物発注業務 名刺、社内オリジナル封筒、印紙、文房具などの社内必要物の要望を受けての発注 10%
庶務業務4社内懇親会の企画・実施 社内で月次で行う懇親会の出前の選定と発注。実際の社内懇親会の仕切り 5%

このうち割合が一番大きい庶務業務1についてさらに詳細を深ぼってみることにしました。庶務業務1は正社員の業務の約30%が費やされているという状態す。ざっくりとしたコスト換算をすると、緒方さんはメンバークラスでしたので、年収が400万円程度。この会社の場合直接社員に支払うコストは約1.5倍(社会保険料会社負担分、退職給付金引当額、生命保険等)の600万円となる計算です。とするとこの庶務業務1にかかるコストは30%ですのでざっくり年間180万円と試算できます。月に換算すると15万円です。

この会社の場合「電話に出ることが当たり前」という文化だったので、本業務を行うことは誰も否定しませんでしたが、わざわざ社員が行う必要があるか?というと謎だったのです。実際にこの事例の企業の場合、カタログを利用した通信販売も行っていいたのですが、それを利用する病院にはコールセンターのフリーダイヤルを通知しているので、代表電話にかかってきた場合「こちらの電話は料金がかかるので、フリーダイヤルの0120ーXXーXXXXにおかけなおしください。カタログに載っておりますので」という決まりきった対応をしていました。

そのためこの業務を行っていた緒方さんにお願いして、電話の内容とその時の応答を1週間だけGoogleスプレッドシートに記録をしてもらいました。内容としては以下のような分類でした。

分類内容かけてくる相手代表的な回答コールに占める割合
1営業の電話様々な業種「必要ありません」
「部署の人間に連絡しておきます。必要あればこちらより連絡します」
80%
2××事業部へ繋いで病院(客)「申し訳ありません。別のフリーダイヤルとなりますので転送ができないのです。
 0120-XXーXXZZ」におかけ直しください。
10%
3注文をしたい病院(客)「申し訳ありません。別のフリーダイヤルとなりますので転送ができないのです。
 0120-XXーXXXX」におかけ直しください。
5%
4外出先からの社員の電話社内の人間(外出中)「○○さんは、今いますので繋ぎます」
「○○さんは、外出中みたいです」
5%

分類2はカタログ販売以外のサービスを行っている、病院向けサブスクリプションを提供している問い合わせの電話でした。こちらもフリーダイヤルの回線を持っているので転送はできませんでした。つまりこの会社では2と3の15%の電話から派生するであろう売上の機会損失を防ぐために、80%の営業の電話も一緒に対応しているような状態でした。

2.2.外注化したほうが圧倒的に安い

現在、ほとんどの社員がE-mailや社用携帯電話をもっているため、既存顧客が代表電話にかけてくるというケースはほとんど無いのです。そのため大企業の場合、代表電話は運用ごと外注化しているケースが多いです。ところが中小企業の場合、社長さんが特に疑問に思わなかったり、検討しても目先のキャッシュアウトを嫌ったりして、こういった社員のスキルが上がらない仕事を従業員にやらせているケースが多いのです。こういった社員のスキルが上がらない仕事は外注化したほうが圧倒的に安いですし、何より従業員が仕事集中できるようになるメリットがありますので、外注化をしていきましょう。

この時は「代表電話 代行」などとWEBで検索するとたくさんのサービスがヒットしました。以前コールセンターとして利用したこともあった株式会社ベルシステム24の「電話代行サービスe秘書」を利用しました。

<電話代行サービスe秘書のトップページ>

この時は「メッセージコース」を利用したのですが、値段は1万5千円/月で平日の9:00~18:00の100コールまで対応してくれるという内容でした。

ここで、改めて総務課の社員(緒方さん)が対応する際に算出したコストと比較してみましょう。

社員が対応する外注化する
時間平日9:00~18:00まで対応可能平日9:00~18:00まで対応可能
コスト月15万円月1.5万円
その他定性事項・事務所の電話が鳴る・事務所の電話はならない
・リアルタイムで分類4(外出先からの社員の電話)に対応できない

コスト優位性は10倍程と圧倒的に外注化が比較にならないほどコスト優位性があることがわかります。こうして可視化をすると、わざわざ「社員が対応する」を選択するのは貴重な社員の工数をどぶに捨てるようなことだとわかるはずです。

唯一、分類4の外出先からの社内への電話に対応できないというのはありますが外注化した場合でもリアルタイムでは無いですが、メールでコールセンターから電話があった旨は連絡が来ます。またそもそも論的な話になりますが、本来は外出をしている社員が電話をかける用がある上司・部下・同僚などの会社用携帯電話をきちんと知っておけば本件は発生することは無いのです。

2.3.業務を移管できるのは社長にしか判断できない

こういったコストメリットがあるにもかかわらず、管理職や従業員主体ではなかなか業務移管を判断できません。というのも社長さんならお分かりだと思いますが、今まで月15万円のコスト換算の庶務業務1を外注化したところで、庶務業務1を担当してた従業員のやることが無くなるだけで、その分15万円の費用を下げられるわけではないからです。実際には初期の状態では外注化する分トータルでの支払い費用は増えます。

そしてまたここでも業務をやめるときと同様なのですが、赤字の中一時的にもコスト増となる判断を行えるのは社長しか判断ができません。

上記はかなりコストの差が出る極端な例ですが、同じような事例として

・システム課の社員が実施している運用業務を、外注化するかしないか

・テレアポ・簡単なセールスまでの業務を、外注化するかしないか

などの判断を迫られるケースも出てきます。こちらはコスト差から微妙という判断になるかもしれませんが、最終的には「事業のコア・競争力の源泉につながらない業務は全て外注化する」と判断したほうが良いです。

「今の社員を切るわけにもいかないし、他にやらせる業務も無いから」と外注化を先延ばししておくと、長期的には「事業のコア・競争力の源泉」とみなされていないのに、その業務を行う従業員のやる気を損ないますし、社内に無駄に人を抱え続けることにつながります。まずは特定の従業員が暇になることを覚悟の上で、業務を外注化していきましょう。

3.削減工数を活用する

3.1.改善系の仕事、手のついていない仕事を手伝わせること

誤解してほしくないのですが、私は「従業員から仕事を取り上げて、クビを切ろう!」ということを推奨しているわけではありません。あくまでも「従業員(特に正社員)にはコア業務に集中させたほうが、結果として従業員にも会社にとっても幸せになる」ということを主張したいのです。

業務をやめたり、業務を移管することで創出される従業員の時間を、他の取り組めていない仕事に振り分けるのです。

例えば

・業務マニュアル(未作成のもの)の作成・更新に取り組ませる

・既存の定常業務の改善の検討に取り組ませる

・売上を向上させるために取り組めていない仕事に取り組ませる

などにぜひ従業員に割り振ってほしいのです。

例えば下は業務をやめる・移管する検討を行った後で、新たに作成した業務分担表です。

右端2番目の緒方さんと右端の加藤さんの業務に注目してください。右端2番目の緒方さんの場合は、業務をやめる・移管するを受けて庶務業務が20%まで減り、その他もろもろ業務は0%になりました。右端の加藤さんは薬事業務が30%に減りました。

その分二人の改善・改革業務等の所が55%と50%にそれぞれ増えています。

社長さんにお願いしたいのは「この人の能力だとできないだろう・・・」と思っていたとしても、必ず一度はチャンスを与えて未来に結び付く業務を依頼してほしいということです。本来会社の従業員に採用されている人ですから、何らかの強み等はあるはずですし、今までそういう仕事をしたことが無いだけでやってみたら意外と特性を発揮するという例も、これまでの経験上経験しているからです。

ここまでを作成したうえで、再度管理職に共有しましょう。

3.2.状況を必ず従業員に通知の上、全員に共有すること

資料を更新したら必ず、業務割合が変更になったことを、従業員に通知しましょう。基本はその通知は管理職から当該従業員に行えばよいですが、出来る限り社長も同席してください。というのもさきほども書いた通りなのですが、従業員の場合たとえ管理職といえども社長と同じ危機意識を持っているとは言い難いからです。もし従業員に通知する際のフィードバックが

「なんか社長がコンサルタントに影響されて、改善改善ってうるさいからさ。まぁ後で元に戻すだろうからまた頑張って」

などという適当な感じで行われたら、従業員に誤ったメッセージを放つことになります。きちんと社長が同席することで、管理職が社長の危機意識を自分なりに解釈して、従業員にフィードバックをさせるのです。

この際、もし可能でああれば社長から当該従業員へ「○○さんの現場の業務を行う中で生まれた知見をぜひ可視化してほしい」というように、前向きな形でフィードバックしましょう。

また従業員への通知が終わったら、再度課のグループ会などの全員がいる場で「緒方さんと加藤さんは改善系の業務に○○%担当してもらうことになった」などと伝えましょう。こうすることで公式な辞令的な意味を持つものとしての重みをつけるわけです。

・・・・・・ちなみにこぼれ話ですが、この業務を行っていた緒方さんも加藤さんもこのフィードバックを行った1ヶ月の間に、自己都合退職を申しいれてきました。

こういったことが起きても社長さんとしては良い兆しととらえたほうが良いです。なぜなら「何に集中するか・何に集中しないか」という選択をしてメッセージを強く打ち出した結果、その考えに合わない人は辞めていくことは、防ぎようがないからです。

庶務業務1の例でいうと、「いろいろな電話対応をして社員の役に立っていた」という緒方さんの業務を外注化することで、そのやりがいを短期的には奪ったことになります。ただ、長期的に考えると方向性が合わないことを早めに気づかせたという意味では社長・従業員双方にとっては幸せと言えるのではないかと思います。

今回は企業経営の赤字から黒字化への転換の中で必須となる、業務分担表を活用しての活動を取り上げました。「業務をやめる」では業務をやめていくプロセスを、「業務を移管する」では業務を外部などに移管していくプロセスを、それぞれ具体的に説明しました。少しでもこのノウハウを活用し、黒字化への転換に役立ててください。

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