総勘定元帳を元に費用を削ろう-全体編-

企業を赤字から黒字化させるうえで一番効果的なのは、総勘定元帳の費用の明細を元に費用を1件1件チェックしていくことで、止める・削減するなど方針を決めて費用を削っていくことです。どのぐらい効果的かというと、実際にある企業でこのアプローチを社長さんと行った際には、わずか3ヶ月後には4000万円/年の費用削減を実現することができました。

このように、総勘定元帳を元に費用を削っていくアプローチの一番のメリットは、結果がすぐ出ることです。解約の手続きなどで多少時間がかかったりはしますが大概は3ヶ月以内に、どんなに時間がかかっても半年以内には結果を出すことができるのです。このようなアプローチは社長さんにしか実現することはできません。当たり前ですが費用を使う部署の人間は管理職を含めて必要と思っているから費用を使っているわけで、それを強制力を持って切れるのは社長さんしかいないからです。

今回は、総勘定元帳を元に費用を削る際に、どのような観点で止める・削減する対象を抽出するのか、対象を抽出した後でどのように推進していくのかを説明したいと思います。特に肝となる「どのような観点で止める・削減するのかを抽出するのか」に関しては、一つ一つの観点だけで別記事になるぐらいの知見がありますので、今日はその概要のみを説明したいと思います。

<目次>

1.総勘定元帳でのチェックの流れ
1.1.総勘定元帳を用意する
1.2.費用を1件1件精査する
1.3.3ヶ月での成果
2.チェック観点
2.1.知らない費用
2.2.ルール上おかしい・ルールそのものがおかしい費用
2.3.状況・目的が変わっているのに契約を続けている費用
3.注意点
3.1.アシスタントの社員を一人つけて進める
3.2.削減対象を3種類に分類する
3.3.週次で進捗を確認していく

1.総勘定元帳でのチェックの流れ

1.1.総勘定元帳を用意する

総勘定元帳でのチェックを行う方法をざっと説明していきたいと思います。まずは精査の元となる総勘定元帳の費用を用意しましょう。総勘定元帳とはすべての取引を勘定科目ベースに1件1件分類したもので、経理の人間に依頼をすればすぐに出てくるはずです。期間は前月から1年分遡って用意しましょう(※1年分が面倒臭ければ最低連続する4ヶ月分でも良いです)。

使用しているシステムにもよりますが、大概どのシステムでも勘定科目別に分けて出力してくれるはずです。細かい簿記の話は省きますが、借方に分類されているものは費用が発生して経費として処理されていることを示していると考えればよいです。このように総勘定元帳の費用を1年分準備することが最初の出発点になります。

ここでは、実際に私が経営改善を行った、病院向けのEC通販の企業の総勘定元帳の実例を取り上げて説明したいと思います。

<総勘定元帳(費用)ーある年の4月の広告宣伝費>

1.2.費用を1件1件精査する

総勘定元帳がそろったらいよいよ精査をしていきます。費用を1件1件精査して今後削減するのか・やめるのかなどの候補を広く洗いていくのです。どのような観点でチェックするのかはこの後説明しますが、まずは少しでも削減の要素があれば候補として挙げていくことになります。この際に一番右などにコメント欄を作って、候補として挙げたものに対しては一つ一つ何故それを出したのか備忘も兼ねてコメントを記載していきます。

<総勘定元帳(費用)ーある年の4月の広告宣伝費(精査後)>

こうして、候補を洗い出したら全対象を行をコピーして1枚のシートにまとめておきます。

1.3.3ヶ月での成果

こうして候補を一覧にしたら、一つ一つの行に対して実際に

・費用の使用をやめる

・費用を削減する

という決定をしていき、費用を削減してきます。ポイントはこの決定を短期間で行うことで、やめるものに関しては3ヶ月以内・削減するものなどに関してもどんなに長くても半年以内に削減が完了するようにします。

冒頭でも書きましたが、私が社長さんとタッグを組んで実現した病院向けEC通販を営む企業では、3ヶ月という短い期間で

・費用をやめるに分類:3000万円/年を削減

・費用を削減するに分類:1000万円/年を削減

の成果を出すことができました。なんら業務一覧や業務工数などを精査せずとも、総勘定元帳を元にしたチェックでこれだけの成果を上げることが出来るのです。一番の肝はやはりどのような基準で費用をやめたり・削減の候補として決めていくことになりますが、次の章ではそのチェック観点を具体的に説明していきましょう。

2.チェック観点

2.1.知らない費用

チェック観点の一つ目は、社長さん自身が知らない費用です。ここでいう「知らない」というのは、存在自体を知らないというのももちろんありますが、経緯自体の中身を知らないという意味でとらえてください。

例えば売上規模が年間10億円以上になってくると、どうしても社長さんが存在を知らなかったり、「前の社長が契約をしてたのだが、果たしてどういう経緯で契約をしたのかわからない」というのが、どうしても存在します。

このEC通販会社の事例では、

・何のために結んだのかよくわからない顧問契約(=業務委託費)

・何故か毎月郵便局から請求される100万以上の郵便後納料金(=通信費)

・何の目的かよくわからずに支払っている協賛金(=広告費)

などがありました。

ここで重要なのは、社長さんが不明であったり、経緯を知らないものはすべて洗い出しておくことです。事業部に任せて、事業部内で自由に決めた支払いなどでも社長さん自体が中身を理解していないものはすべて洗い出しましょう。事業部側でも責任者が変わったりした場合に「これは社長が決めたことだから本当は不要なのだが削減できない」と事業部などの管理職の従業員などが思い込んでいる費用というのも思いのほか存在します。このようなお見合いになってしまい、費用を無駄に垂れ流すのを防ぐために、まずは社長さん自身が内容を理解していないものはすべて洗い出しておきましょう。

※知らない費用の詳細は、総勘定元帳を元に費用を削ろう-知らない費用・編-を見てください。

2.2.ルール上おかしい・ルールそのものがおかしい費用

2つ目の観点は「ルール上おかしい、あるいはルールそのものがおかしい」費用を見つけるということです。おそらく費用計上の際には社内でルールがあると思うのですが、そのルールにのっとっていないものや、あるいは改めて考えてみてルールそのものに穴があったりなどするものをここで改めて見つけるのです。

この会社の事例では、

・転勤規程に則っていないのに、住居手当を支払っている社員がいる(=地代家賃)

・購買規程に則っていないのに、複数のコピー機業者を利用している(=消耗品費)

・通勤規程には則っているが、ルールの見直しが必要そうな対面営業マン用の車のリース契約関連費用(=車両費)

などがこのプロセスで気づくことができました。

ここで重要なのは、後者のケースのそもそもルール自体が実態に即していないか・おかしくないかを考えることです。

たとえば上記の最後の事例は、通勤規程上営業マンが社用車を使いそれを通勤に利用することが定められていました。ところが、この会社の場合社用車には企業名などのロゴが入っていないため、実態としては社用車を流用して私的なドライブに利用し、そのガソリン代なども全額会社支給のETC付クレジットカードで支払っていることが疑われることに気付くことにできました。

実際には通勤に利用されてしまうと、社用車を従業員の自宅に置くことになるため私的利用を制御することはかなり難しいです。これに対応する場合には、例えば極端ですが「社用車での出勤・退勤は禁止する」など規程をそもそも変えてしまうことが有効になります。

※ ルール上おかしい・ルールそのものがおかしい費用の詳細は、総勘定元帳を元に費用を削ろう-ルール上おかしい・ルールそのものがおかしい費用・編- を見てください。

2.3.状況・目的が変わっているのに契約を続けている費用

3つ目の観点は状況・目的が変わっているにもかかわらず、踏ん切りがつかずずるずる契約を続けている費用を見つけることです。契約当初は価値があったり、支払うことは全く問題なかったりしたものでも、会社の状況が変わったり、目的が変わったりすれば当然その費用も見直しが必要になるからです。

この会社の事例では、

・以前黒字経営の際に節税目的で法人保険に入ったが、そもそも赤字なので節税をしている場合ではないのに法人保険を続けている(=福利厚生費)

・以前黒字時代に始めた総務が発注する新幹線の回数券。たまに期限内に使いきれずに破棄することが発生している(=旅費交通費)

・大手病院とのパイプ作りのために契約した大手病院OBとの顧問契約。大手病院とのパイプは不要になったのに契約を続けている(=業務委託費)

などがありました。

特に社長さんが決断している場合には注意頂きたいのですが、「自分が決めたものは決断を正当化しがちになる」という点です。特に最終的に自分が相談を受けていたりするとその通りに行った案件などに対しては辞めるのが心理的に難しくなるのです。ただ、ここで自分の決断を正当化しても赤字が急になくなってはくれませんし、状況はひどくなるばかりです。決断からわずか半年でも状況が変わっていることも多いため、少なくとも「この契約の目的は何で、どういう状況で結んだのか」は意識しておき、それが変わった場合には躊躇なく廃止・削減をするという姿勢でいてください。

※ 状況・目的が変わっているのに契約を続けている費用の詳細は、総勘定元帳を元に費用を削ろう-状況・目的が変わっているのに契約を続けている費用・編-を見てください。

3.注意点

3.1.アシスタントの社員を一人つけて進める

総勘定元帳を元にした費用の精査は、結果もすぐ出ますので赤字状態に陥っているときには真っ先に社長さんに取り組んでほしいことになります。ただし、総勘定元帳を元にした費用削減を進めていくためにはいくつかの注意点がありますので、以下を忘れないで実行するようにしてください。

まず注意点の1つ目は、社長さんの手足となるアシスタントとしてだれか一人社員をつけることです。この場合その社員には専任としてミッション100%の業務として本件の進捗をおこなわせてください。なるだけ若手で社長さんの言う事を素直に聞くメンバーにやってもらったほうが良いでしょう。社長さんが出来る限り気に入っているメンバーをつけてください。

アシスタントをつける理由は、社長が費用をやめる・削減するなどの話を社長さん自身が取引先に切り出すと、ほぼすべての取引先が理由を確認し、翻意させようとあの手この手で社長さんに面会などを求めて面倒臭くなってくるからです。こういったことにいちいち対応していてはきりがありませんので、この手の連絡などはアシスタントに任せて、アシスタントには淡々と取引先にコスト削減を行わせるのです。

あくまでも主役は社長さん自身で、アシスタントは指示をそのまま実行する存在としてとらえてください。アシスタントはあくまでもアシスタントであり、社長さん自身がプレイングマネジャーのつもりで取り組むことを強く意識してください。

3.2.削減対象を3種類に分類する

注意点の2つ目は、削減の候補確度を色分けしておくということです。削減の対象として候補を幅広く上げていくことが大切であることは既に説明しましたが、チェック基準に則って洗い出す際に

・確実にやめる・削減できる目途がついている(赤色)

・やめる・削減できる目途がつきそう(橙色)

・不明だが、やめる・削減する方向としたい(水色)

などのように分類しておきましょう。この分類によって、案件の着手時期や完了時期を分けるのです。

具体的には、

・赤色・・・基本的には1ヶ月以内に交渉を完了しておく。

・橙色・・・中身を検討した後、3ヶ月以内には交渉を完了しておく。

・水色・・・中身を検討した後、6ヶ月以内には交渉を完了しておく。

などのように赤色からまずは注力して終わらせるようにしましょう。

ここで分類する理由は、成功体験を早めに積んでおきたいからと当たり前ですが効果が確実に見込めるからです。人間確実に削減できるものから取り組んだほうが、そこで成功体験ができるのでその後の橙色・水色の交渉にもいい影響を及ぼすのです。またすでに目途がついているものを取り組んだほうが効果も確実に出ます。金額の大小にかかわらず、この分類に沿って対応スケジュールを分けることを行ってください。

3.3.週次で進捗を確認していく

3つ目は、必ず1件1件に対して週次で、その進捗を確認することです。総勘定元帳を元にした費用削減をスピーディーに行うために、週次で進捗を確認してください。ここで使うのは一覧表で構いませんので、その進捗を毎週更新するのです。1つ目の注意点で述べたアシスタントをつけていれば、専属でその仕事をしているので、この進捗なども常に報告させるようにしましょう。

先ほど社長さん自身がプレイングマネジャーのつもりで動いてほしいと書きましたが、本件が動かなくて赤字が解消しなくても社長さん以外はアシスタントですら真の意味で困ることは在りません。社長さん自身が主担当者としての意識を持ち、その進捗を毎週確認していってください。

今日は赤字企業での総勘定元帳を元にした費用の精査と黒字化の実現について、総勘定元帳を元にしたチェックの概要、その際のチェックの視点、勧めていくうえでの注意事項を説明しました。今回は概要的な記事となりますので、次回以降細かなチェック観点と、実際にどのような交渉を行い費用をやめる・削減するを実現したのかを記載していきます。

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