総勘定元帳を元に費用を削ろう-知らない費用・編-

企業を赤字から黒字化させる上で総勘定元帳を元にした削減計画を立てることを、総勘定元帳を元に費用を削ろう-全体編-で説明しました。その中で大切な削減費用の候補を出すうえで、

・知らない費用

・ルール上おかしい・ルールそのものがおかしい費用

・状況・目的が変わっているのに契約を続けている費用

という観点でチェックをすべきということを書きました。今日は「知らない費用」の具体的な実例を説明したいと思います。どのような費用をどのような観点で洗い出したのか、そして削減に向けてどのように裏取りをて交渉をしていったのかを、実例を元に説明したいと思います。

その前に、まず「知らない費用」の定義ですが、社長さんが「こんな費用請求されるいわれはない!」という費用そのもののを知らないという例はさすがに無いと思います(※もしそういった費用がある場合には、すぐにでも解約してください)。実際には「知らない」というのは、「目的をきちんと説明できない」と捉えます。すなわち「知らない」費用の候補となるのは、「社長が目的を説明できない」費用だと思ってください。

社長が目的を説明できないの典型的な事例として、

・先代社長からのお付き合いで支払っているが、どのような目的で契約したのかわからない

・事業部が支払いをしているが、何のためにそれを支払っているのかわからない

などがあります。先代の社長さんなどから引き継いで3ヶ月以内などの特殊な状況であれば、まだそういう費用が残っているのもわからなくも無いですが、3ヶ月以上経つのに上記のような状況だと、さすがにそうも言ってられませんのでどうしていくのか決断が必要です。では早速具体的にどのような費用があったのかを、私が携わったEC通販事業を例として説明したいと思います。

<目次>

1.事例その1.顧問料
1.1.先代の社長から引き継いでいた顧問契約の事例
1.2.裏付けを取る
1.3.削減の交渉と実現
2.事例その2.広告費
2.1.何の目的かよくわからない協賛金
2.2.裏付けを取る
2.3.削減の交渉と実現
3.事例その3.通信費
3.1.毎月経理部起因で100万円かかる通信費
3.2.裏付けを取る
3.3.事業P/L上、対象事業部に負担させる

1.事例その1.顧問料

1.1.先代の社長から引き継いでいた顧問契約の事例

このEC通販企業の場合、会計上外部パートナーが常駐する費用は業務委託費と顧問料と分割して計上されていました。そして主に後者の顧問料では、顧問税理士・顧問弁護士・産業医などの顧問費用の契約(バックオフィス部門・社長直下)などが計上されていました。

その中でも顧問契約の中で社長がその目的を説明できていないものが2つありました。どちらも人事総務の社長直下に紐づいていた費用です。

NO摘要費用負担部署貸方借方
顧問料14月顧問料支払_○○顧問人事総務部367,3660
顧問料2△△顧問_顧問料人事総務部300,0000

顧問料1は、この企業が1年半前にある企業を買収しており、その時の相手方の会長兼株主であった○○さんへ毎月支払っている顧問費用でした。その○○元会長は実際に会社に来ることは無いものの、社長がなぜこの顧問料を支払っているかは分かっておらず、前任の社長より引き継いだので慣習的に支払っているとの事でした。

顧問料2は、以前この会社の社長であった△△さんへ毎月支払っている顧問費用でした。ただし、△△さんが社長であったのはもう5年以上も前の話であり、退任の際に登記上の役人からも外れたけど何故か契約が残っているとの事でした。実際に現在の社長は△△さんと月一で話はするものの、特に世間話をする程度で現在の経営上の話はしないとの事でした。

額が少ないですが、両名を合わせると月額667,366円ですので、年間に換算すると800万円近くになります。まずはこの費用を候補対象として廃止することはできないのか検討をしてみることにしました。

1.2.裏付けを取る

顧問料1に関しては、1年半前の買収のM&A契約の際の契約書や覚書に、何か立場を規定した事項が無いか調査を行いました。そうしたところ当時の株式譲渡の契約書の中に○○顧問との第4条の売主(=元会長の○○さんのこと)の顧問契約に関する記載を見つけました。

<顧問料1の前提となっている、M&A契約の抜粋>

5項を読むと、別途買主と売主で期間・金額を協議するように書かれており、M&A契約の契約書では、期間や金額を縛っているわけでは無いことがわかりました。

その後で、現在の顧問契約の元になる契約書を探し、これも問題なく発見できました。内容を確認したところ1年契約で双方より廃止の申出が無い限り自動更新される契約になっており、調査時がちょうど自動更新の2ヶ月後の時点で残期間は10ヶ月が残っている状態でした。ただし、このEC通販企業で用いている一般的な顧問契約のひな形であったので、中途解約の際には双方のいずれかの申出で2ヶ月前に申し出れば解約可能であるとの条項も入っていることが確認できました。

次に顧問料2に関して調査したところ、こちらも契約書を発見することが出来ました。

<顧問料2の契約の目的>

内容を確認すると、甲(=こちらの会社)の従業員・マネージャーに対しての教育研修とあります。社長に確認したところ、1年ほど前に人事部がマネジャー向けに研修を行っており、その時にこの方が講師をされたことがあるとの事でした。ただし、その後1年以上一度も研修などは行われることはありませんでしたが、なぜか契約が残っており費用も払い続けられているというものであることが判明しました。

契約は自動での更新などは定められていなかったものの、契約がこの時点で2ヶ月後に切れるという状況でした。

1.3.削減の交渉と実現

ここまでわかったらそれぞれ交渉を行います。顧問料1・顧問料2ともに実際の実利は何もないため、廃止の方向で交渉することをまずは社長さんに決めていただきました。交渉を社長が直接行うと角が立つため、私が社長の代理として行いながら、社長にも同じメールに入るなどして問題があった場合にはサポートしてもらうような形にしました。

顧問料1に関しては、元会長の○○顧問に都合の良い時に来てもらい、特に資料は準備せずに事前に要点だけまとめたメモ書きのみで話をしました。内容としては

・現在会社全体で赤字であり、費用の大幅な見直しを行っていること

・これまでの貢献には感謝しているが、今後はアドバイスを必要とせず独り立ちしてやっていこうとしており、顧問契約を打ち切りたいこと

・契約書に定めた最短の2ヶ月後に該当する月末日をもって解約を行いたいこと

をお伝えしました。

仮に、解約に合意頂けない場合はメール通知をもって強制的に解約を行うことも覚悟していましたが、ご納得いただき2ヶ月後の月末をもって解約することに同意いただきました。その後は念のために解約の覚書を作成し、双方で署名・捺印を行いました。

顧問料2に関しては、相手方の△△元社長個人と契約しているわけでは無く、△△元社長が別に経営している法人との契約となっておりました。社長は△△元社長と深い面識は無いとの事なので、こちらはメールにて顧問料1と同じような内容を伝え契約の更新は行わない旨を説明しました。相手方の△△元社長も、現在の社長に代替わりしてから相談に行かないという状況があったので、すんなりと承諾していただきました。こちらに関しては特に解約の覚書を交わす必要は無いので、上記のメールの通知をもって解約の証拠としました。

このように顧問料に関しては、合計でも1日もかからないぐらいの下調べや交渉程度で、月66万円の費用の削減を実現できる目途が立ちました。結果としてこの顧問料1・顧問料2とも、2ヶ月後の事業P/Lからは削減されることになりました。このような形で、候補だし⇒調査・削減交渉⇒請求が無いことを確認、という流れで確認します。このようなプロセスを勘定科目ごとに実施するのです。

2.事例その2.広告宣伝費

2.1.何の目的かよくわらからない協賛金

次は広告宣伝費の例を取り上げましょう。広告宣伝費はそれこそ幅広く、このEC通販会社の場合はチラシの印刷代金、アフィリエイト広告に利用した料金、FAXDMの一斉同報の料金などが計上されていました。その中でも広告宣伝費の中で社長がその目的を説明できていないものが1つありました。

NO摘要費用負担部署貸方借方
広告宣伝費1ラジオ(17.4~18.3)X月分_○○ラジオC事業Bカテゴリ200,0000

広告宣伝費1は、○○ラジオで行われている番組のスポンサー契約でした。もちろんラジオのスポンサーをしていること自体は事実としてわかるのですが、この会社が運営する病院向けのEC通販事業という事業形態からは、ラジオのスポンサード契約は何も関連がありません。また仮に関連があったとしても、この○○ラジオというのは東京の世田谷区に限定して放送されている地域限定ラジオなので、聴衆者もたかが知れています。これでは費用対効果も全く期待できません。

社長自体は前任の社長から特に説明も無く引き継ぎそのままとの事でした。経緯としては大手病院から協賛をお願いされてスポンサー契約をしていることぐらいの内容で、それがどのような経緯でなされたものなのか、費用対効果があるものなのかは全く分からないとの事でした。

2.2.裏取り

こちらに関しても引継ぎがなされていないため、契約書等の調査がまずは第一になります。確認したころ、こちらも契約書が発見できました。

<スポンサー契約の契約書(抜粋)>

第4条に記載の通り、費用は一括で支払契約になっていました。すなわちキャッシュ上は既に120万円の支払がなされており、経費処理上それを月次で6分割して計上しているというだけでした

次に費用対効果を確認しようとこのラジオスポンサー契約の担当事業部(C事業部Bカテゴリの運営部署に確認したところ以下の事がわかりました。

・経緯はクライアントである大手病院の院長が直接前任の社長に依頼を師、前任の社長もC事業部の意向などは無視して受諾したこと。

・C事業部では毎月非衣料品などの雑品を無償プレゼントとして番組に提供していること

・C事業部としては無駄な出費かつ無償プレゼントなどが手間であるため、止めてよいのならば一刻も早く止めたいこと

ここまでわかってくれば後は一刻も早く解約をするだけです。契約書上は1ヶ月前の通知で解約できることは明記されているものの、支払済みの前払費用に関してはどのように取り扱うのか明記がされていませんでした。そこで可能であればまだ前払費用に関しては取り戻す方針を立てました。

2.3.削減の交渉と実現

ここまで情報を揃えたうえで、直接契約を交わしているラジオ会社と交渉を行いました。まず直接相手方のラジオ会社の担当者に対してメールで

・社内体制の変更があり、事業注力をするため契約自体は可能な限り最短の1ヶ月で打ち切りたいこと

・無償プレゼントなども止めたいこと

・残期間分の支払済み費用は計算いただき、未消化分は返還いただきたいこと。

をお伝えしました。契約書には支払済みの費用に関する取扱いは明記されていないものの、いったんは費用返還まで求めた形で切り出しました。

ほどなく相手側からの返信があり、上記2点は了解したものの、3点目の費用に関しては既に番組の枠の確保上前払いを求めているものであり、一部出演者への支払費用に充てることもあり返還は難しいとの回答でした。

ここでしつこく粘ることもできたのですが、相手方の言い分もわかりますし、何より残期間分の費用を計算しても40万円程度と少額でした。既に支払っている40万円の交渉を行っても、こちらにとっては分が悪いですし、意地になって弁護士などに依頼をしても今度は着手金の方が高額になってしまいます。最終的には、相手側の要望は飲む形にして、途中解約を行いました。

その後、そのスポンサー契約を持ってきた大手病院の院長から嫌みのような電話が社長に入りました。ただそのEC通販の社長さんは電話を聞いて「院長の道楽のためにお金を出したのに、感謝されるわけでも無くこれでは当社が財布代わりではないか!」と憤慨していました。このように結果として意味のない費用だと気づくことが出来たという事例です。

2.事例その3.通信費

3.1.毎月経理部起因で100万円以上かかる通信費

最後に、通信費の例を取り上げましょう。通信費はこの会社の場合は郵便代金や、ASPのインフラ費用、会社契約の携帯電話費用などが計上されていました。その中で社長さんがその目的を説明できていないものが1つ存在していました。

NO摘要主管部署貸方借方
通信費1一般後納郵便料(YY年MM月分)財務経理部1,591,5940

通信費1は、見ての通り取引先は会社の本社所在地のある郵便局だったのですが月に150万円近くの費用を支払っていました。毎月費用は微妙に異なるものの、だいたい140万円~160万円の間に収まっています。単純に郵送料1通につき100円程度だとしても16,000件近くの郵便物を送っていないと計算があいません。

当初はEC通販の郵送費などで利用しているのか?と総勘定元帳を再度調べましたが、それらは通信費ではなく運賃荷造費に別途計上されていたため、それとも違う。社長さん自体も何にこれだけ郵便費用を使っているのか全く不明で説明ができないとのことでした。

3.2.裏取り

こちらに関しては主管部署である財務経理部にまずこの費用が何であるのか確認を行うことにしました。確認の結果、以下のような構成になっていることが分かりました。

事業利用:A事業部カテゴリAの病院・歯医者などのToB向けEC通販ビジネスの、月次の請求書送付費用(約100万円)

社内利用:会社全体で利用している社内便やゆうパック。また社員が個人的に宛先を書いて送付する荷物の月次費用(約60万円)

ということが分かりました。

まず月次の請求書に関しては、当時でもクライアントのメールに請求書をPDF送付で代替するなどのシステムが出回っていたので、なぜ紙で送付しているのかを財務経理部に確認しました。すると「A事業部カテゴリA(=売上の約9割を占める)の顧客である病院が嫌がるとA事業部の事業部長から強く主張されているため、着手できていない」とのことでした。これは理由を聞いて妙だとおかしな話だと思いました。確かにクライアントの病院の中には、ペーパレス対応が出来ておらず紙で請求書を求めるクライアントも一定数いることは理解できます。ただし、それでも全クライアントが嫌がるという事はあり得ず、メールでも良いというクライアントもいるはずです。全クライアントに対して紙で送るのが正しいはずがありません。

これを受けてA事業部カテゴリAの事業部長に社長さんが理由を確認したところ、「病院が嫌がると言ったつもりはない。ただし現在登録されているクライアントのメールアドレスは病院側は請求先のメールアドレスとして登録しているわけではなく、通知先のメールアドレスぐらいの重みでしかない。そのため別途病院に登録してもらうのはハードルは高いのではないか?と言っただけだ」と若干言っていることが食い違っていました。

あまりA事業部の事業部長や経理部をこれ以上追及をしても仕方ないため、社長さんの方で意思固めをしてもらい、再度A事業部長に「病院側に請求先のメールアドレスとして登録を依頼し、そのうえで請求書のPDF化をはかることで問題ないか?」という確認を行いました。A事業部長からは「問題ない」という回答を得たため、さっそく社内で検討をすることになりました。開発部に確認したころ1項目の追加を病院・歯医者の管理項目画面に反映するのに約1ヶ月程度で対応できそうだという見通しが立ちました。ただし項目が開発できても、それを全病院・歯科医院に案内し、かつ入力してもらったところから順次切り替え、、、とやっていくと半年~1年スパンで取り組む案件になりそうだということも同時に分かってきました。

3.3.事業P/L上、対象事業部に負担させる

そこで、まずは社内ルールを変更し、事業P/L作成において適切に事業部に配賦されるようにしました。通信費1の費用の

・5/8を財務経理部で負担

・3/8を人事総務部で負担

とするようにロジックを変更しました。そのうえで、月次の事業P/Lを作成する際には、

・財務経理部の費用・・・売上費で事業部に配賦

・人事総務部の費用・・・人数比で事業部に配賦

するようなロジックを適用しました。実際に財務経理部の人件費や通信費はほぼほぼA事業部カテゴリAのためにあるような状態であったため、そのようにしたほうがより実態に即していたからです(事業P/Lの作成に関する記事はこちら

一方で後者の費用はある時には事業の販促の送付忘れで利用し、ある時には社内送付用など厳密に区別がつけられないので、こちらは人事総務部のほうで負担させ、最終的には人数比で事業部に請求される形にしました。

このように対応に時間がかかる場合には、まずは直近で対応できる形で正確に分類し事業にできる限り実態に即して配賦するという形にしました。

本日は、「知らない費用」に関して、顧問料・広告宣伝費・通信費の実例を例にとり、それぞれどのように裏取り調査をして費用を止めていったのかを説明しました。大切なのは必ず事実を確認したうえで、止めるべきと社長が判断したら躊躇なく止めることをです。また最悪止めることが急にできなくても、事業P/Lに反映させるなどして、事業側の負担になるようにロジックを変更するという事です。

別の記事で

・ルール上おかしい・ルールそのものがおかしい費用

・状況・目的が変わっているのに契約を続けている費用

についても説明したいと思いますので、ご期待ください。

お見積もりをご希望の場合は、お気軽にお問合せフォームよりご連絡ください

お問い合わせはこちら