総勘定元帳を元に費用を削ろう-ルール上おかしい・ルールそのものがおかしい費用・編-

企業を赤字から黒字化させる上で総勘定元帳を元にした削減計画を立てることを、総勘定元帳を元に費用を削ろう-全体編-で説明しました。その中で大切な削減費用の候補を出すうえで、

・知らない費用

・ルール上おかしい・ルールそのものがおかしい費用

・状況・目的が変わっているのに契約を続けている費用

という観点でチェックをすべきということを書きました。今日は 「ルール上おかしい・ルールそのものがおかしい費用」 の具体的な実例を説明したいと思います。どのような費用をどのような観点で洗い出したのか、そして削減に向けてどのように裏取りをして交渉をしていったのかを、実例を元に説明したいと思います。

さて「ルール上おかしい・ルールそのものがおかしい費用」に関しては、これらは大部分が社員が申請して使う費用に限定されます。社員が使う費用は、社内で使うもの・社外との人物の交際費として使うものの2通りありますが。社員の費用の使い方を見てみると、

・ルール上おかしい・・・費用の支払い方がルールにのっとっていない費用

・ルールそのものがおかしい・・・費用の支払い方を見てみると、ルールそのものがおかしいのではないかと思う費用

の2種類があることに気付くと思います。では早速具体的にどのような費用があったのかを、私が携わったEC通販事業を例として説明したいと思います。

<目次>

1.事例その1.地代家賃(ルール上おかしい費用)
1.1.何故か家賃手当が期限を超えても出続けている事例
1.2.裏付けを取る
1.3.削減は実施できず
2.事例その2.器具工具(ルールそのものがおかしい費用)
2.1.値段が著しく異なるPC費用
2.2.裏付けを取る
2.3.新たに策定した内規ルールと費用削減以上の成果
3.事例その3.車両費(ルールそのものがおかしい費用)
3.1.EC通販ではなく、直接病院を回る営業マンの車両費用
3.2.裏付けを取る
3.3.事業売却が決まっていたため、改訂せず

1.事例その1.地代家賃(ルール上おかしい費用)

まずルール上おかしい・ルールそのものがおかしいという話をする前に、きちんと社長さんが自身が社内ルールを把握している必要があります。通常社内で従業員規程として、人事部総務部などが中心となって定めていると思いますので、まずは規程自体をきちんと理解する必要がありますが、大体違反が出やすいものは以下のような規程に代表されます

・転勤規程

・国内出張・海外出張手当規程

・購買規程

本来は既存のおかしな規程に気付くためにも、社長さんが規程を覚えておいてもらう必要がありますが、難しい場合にはこの費用の洗い出しの時に総務などから一人メンバーを借りてきて2~3時間集中して、一緒にチェックさせるようにすると良いでしょう。その際に社内規程のどこに抵触するのか、あるいは既存の社内規程の中におかしいと思うものはないかなどは意見をもらうようにしてください。人事部や総務部のメンバーなどは実際に申請に触れることが多いため、何かしらの意見を持っていることが多いからです。

1.1.何故か家賃手当が期限を超えても出続けている事例

このEC通販企業の場合、東京と静岡の2箇所で運営をしていました。東京が元々あった拠点で、静岡が買収した会社の本社があったところです。会社の買収後は、本社機能やビジネスの大部分は東京に集約することになり、それに伴い社員も単身赴任などで来てもらう必要性が生じたので単身者・家族帯同者に合わせて住居費用を負担する家賃手当規程を会社の買収後に準備していました。

その際の規程がこのようなものでした。

<家賃手当規定>

これを見ると居住地域ごとに最大2年間家賃が支給され、2年経過後は支給が無くなる旨が記載されています。

この規程を元に地代家賃を精査したところ、ルールに則らない支払いが見つかりました。

NO摘要費用負担部署貸方借方
地代家賃1X月従業員家賃(社員名:○○)人事総務部69,4440
地代家賃2X月従業員家賃(社員名:△△)人事総務部39,4310

何かというと、社員○○も、社員△△もすでに転勤後2年を経過していたのです。つまり本来は受給資格が無いのに何故か、家賃補助が会社負担で出ていることになっていたのです。

1.2.裏付けを取る

こちらに関しては社長さん自体が前任の社長から引継ぎを受けていなかったので、何故この2名が転勤後2年を経過しても家賃を支給されているのか把握ができていませんでした。過去の稟議記録なども調べたのですが、こちらも記録には残っていません。

当時のことを知らないか人事部の社員に確認を行ったところ、

・両名が家賃補助を出してくれないなら、転職を検討することを当時の2人が所属している事業部長へ告知した。

・事業部からは「今人がいない中抜けられると困るので特別に2年を経過しても家賃の支払いを続けられないか?」と相談を受け、社長に報告したところ口頭で1年間伸ばすように指示を受けた。

・そのため1年間という条件で延長を認めると事業部長に指示を行い、事業部長が本人たちにそれをもって転職を思いとどまるよう告知を行った。

という経緯があったことがわかりました。

もちろん、優秀な社員をつなぎ留めておくためにそのような行為をするのは否定しないのですが、施策として規程に則らない行為を行うのは会社として非常にまずいです。もしこういったイレギュラー対応を行うのであれば、イレギュラー対応があるよう規程の改訂などを行い、「2年を経過したものでも、相応の事情がある場合は社長判断の元追加で支給を行う」など例外条項を定めておかないといけません。こういった条項が整備されていないと、仮に不公平が従業員にあったとしても、それは規程上定められているという事を従業員に説明ができないのです。

1.3.削減は実現できず

この場合は、前任の社長の決定は事実として存在するので、当該従業員との間に口約束が存在しただけですが、1年間の延長という期間の約束は守らねばなりません。

続けて来年以降をどうするのですが、これはその延長を申し出た事業部長に社長から厳しめに確認を行ってもらいました。内容としては

・人事評定上の評価がそこまで高くないが、再度ルールを曲げてまで延長したいか?

・家賃補助は近いうちに事業P/L上、該当事業部の費用負担とする形でよいか?

の2点を確認したところ、事業部長からは「ルール違反を常態化させてまで、特別扱いをしたいわけでは無い」と言ってくれました。

そのため今回はあくまでも前任の社長のイレギュラー承認とし、規程上は追加修正は行わない事にしました。ただし、また直前になりこの事業部長が当初の約束と違うことを言い出し、忙しいのでぬけられたら困るから延長してほしい等相談してくる可能性がありました。そこで、人事部の方で当該従業員へ再延長はしないことを文章として作成して、人事から告知を行いました。再度延長などがなし崩しで行われることを防ぐ効果もありますし、また本当に家賃補助程度で転職を検討するのならば、早めに転職先を探していただきたいという思いもあっての事でした。

結果として、△△さんは3ヶ月後、○○さんも6ヶ月後には退職を申請してきました。意図せず人件費を削減することにつながったのですが、事前に退職がわかっていたため事業部には他の部署から人を異動させて対応することが出来ました。

2.事例その2.消耗品費(ルールそのものがおかしい費用)

2.1.値段が著しく異なるPC費用

次は消耗品費の例を取り上げましょう。消耗品費は、この会社の場合はFAXやプリンターなどの紙の費用、PCの購入費用、封筒などの事務品購入費用などが計上されていました。

その中で、少し目につく費用がありました。

NO摘要費用負担部署貸方借方
消耗品費1PC1台購入(社員名無し)システム部インフラ課140,6000
消耗品費2PC1台購入(社員名○○)システム部インフラ課160,0000

消耗品費1・2ともに社員が利用しているPCの購入代金でした。PCの購入に関しては社内規程等は存在しませんでしたが、購入ルールとして月に1台~2台を限度として、システム部インフラ課が各課のPCを購入を調整するような仕組みになっていました。必要なセットアップ等もあるため、事業部独自では購入できないようにしていたのです。

PC自体は減価償却費の対象の為事業P/L上大きな影響はないですが、こういう一見大きな影響を与えない項目こそが、ルール違反やおかしなルールを見逃しやすい原因となっていたりしますので、入念にチェックすることにしました。何がおかしいかというとPC費用がこの例からもわかる通り同じ月でも異なることです。

大企業などであれば集中購買である程度その年に購入する端末は決まっていたりしますが、中小企業だとそのようなことをしようとしても相手にされませんので都度購入となります。ただここから読み取れるのは、その購入機種がバラバラということです。その後、わずか3ヶ月分の総勘定元帳をチェックしただけでも、PCは最低114,800円から、最高175,926円と1.5倍以上の開きがあり端末の金額も8割程度が違うことが判明しました。

2.2.裏取り

こちらは、実際にどのように端末選定を行っているのかシステム部インフラ課に確認することにしました。

担当に確認した結果

・ルール上推奨端末などは設定していないので、事業部が「この端末が買いたい」といった端末を購入している。そのためメーカー等はバラバラ

・相談があった場合のみ、費用が安いデスクトップ・ノートPCでお勧めの端末を提示している。ただし、これが選択されることはあまりない。

・金額に関しては上限額等の決まりはない。

・端末到着後システム部インフラ課でセットアップを行って、担当者にPCを納品する

との事が判明しました。結果として、社内で利用されているPCのメーカーもLenovo、Panasonic、日本HP、NECとバラバラな状態であることがわかりました。

一方事業部側にヒアリングしたところ、インフラ課が推奨する端末などがそもそも社内HPに掲載されていないため、推奨端末が存在しているという事実がそもそも浸透していないことがわかりました。そのため毎回自分たちで選定しなければいけないと考え、知っている人に聞いて端末を選定している状態と、かなり非効率なことになっていることが明らかとなりました。

この調査を行う中で、社内のPC保有状況を見直したところ、デスクトップ・ノートPC併用で実際にノートPCは利用していないなど、端末保有にかなりの無駄があることがわかりました。この当時このEC通販企業では90名前後の社員がいたのですが、PCの台数は150台ほど存在しており、人によっては最大3台のPCを保持しているなどの状態が放置されていることもわかりました。

2.3.新たな社内ルールの策定と費用削減以上の成果

そこでこのケースの場合には、

・社内PCの保有ルール

・社内PCの新機購入時のルール

の2つのルールを作成することにしました。わざわざ社内規程を変えるほどではないので、ルール作りと新規購入時の標準端末選定は社内システム部インフラ課に任せることにしました。

2ヶ月ほどで、以下のようなルールを作ることが出来ました。

項目策定ルール
社内PCの保有ルール・原則一人一台とする。
・二台以上保有したい場合には、管掌取締役の承認を必要とする
社内PCの新規申請時のルール・ノートPC2機種(ロースペック用(NEC)・ハイスペック用(Panasonic))・デスクトップ1機種のいずれかを選択する。
・デフォルトはノートPC(ロースペック用)であるが、ノートPC(ハイスペック用)・デスクトップを申請する場合には事由を記載すること

これにより推奨端末の余剰が出ている場合にはデータFMTを行ったうえでその端末を再利用することにし、余計な購入をせずとも済むようになりました。毎月2~3件発生していた新規購入は2~3ヶ月に1回で収まるようになりました。

これに関しては、事業P/Lとしての削減は大したことが無いのですが、大きいのが端末の新規購入にかかる事業部・システム部システム課双方の労力を削減することが出来たことです。対応しなければいけない端末が複数ある状態ではその管理は大変ですが、わずか3型番に絞ったことで選択の余地が無くなりました。費用を削減しようとする総勘定元帳のチェックでは、このような費用に限定されない、従業員の労力を削減することにもつながることを理解しておきましょう。

3.車両費(ルールそのものがおかしい費用)

3.1.EC通販ではなく、直接病院を回る営業マンの車両費用

最後に、車両費の例を取り上げましょう。車両費はこの会社の場合は病院向けの直販営業マン用のため、毎月契約をしていました。

種類としては以下の3種類が毎月かかっており、後は発生都度修理代などがかかっていました。

NO摘要主管部署貸方借方
車両費1営業車リース料(12台)D事業部345,6080
車両費2XXX火災保険 車両保険(14台)D事業部135,7700
車両費3営業車両ガソリン代D事業部159,1700

車両費1は直販営業マン・配送スタッフが利用している営業車両のリース料金でした。この当時営業マンと配送スタッフを含めて12名がおり、各自1台自動車をリース契約で利用していました。

車両費2は車両費1で契約している営業車の車両保険の代金です。当然ながら仕事で車を使う以上事故は起きうることを想定していないといけないため、必要なものです。

車両費3は営業車両のガソリン代です。当然ながらこれも会社用のETC付のクレジットカードを契約しており、それを利用してガソリンを入れる形となっていました。

車両費1~3は、車両費1がメインであり、後は付随で発生するという側面が強かったです。また、ここでは事例が違うので書きませんが、追加として営業マン用の車両の駐車場も追加で借りていましたので、本来は車両関係の費用だけで月85万以上かかっていました。

車両自体はミニバンや軽ワゴンタイプのタイプを利用しており、よくありがちな社名を印字したり内部の改造などは行っていませんでした。直接訪問営業で取り扱う商品が医薬品が多かったため、かさばらないためどんなに大きくても軽ワゴン程度のスペースがあれば、営業マンは問題なく利用できる状態でした。

3.2.裏取り

実はこちらのD事業部(病院向けの直接訪問営業)で利用している車両関係に関しては、規程が何も存在していませんでした。そのため制限は何もなく、

・何故リース契約で無いとダメなのか?必要に応じてレンタカーをレンタルしたほうが安くつくのではないか?

・本当に12台必要なのか?過剰保有になっているのではないか?

・営業車を自己利用しているケースがあるのではないか?

などを確認する必要がありました。

そもそもルールがないこと自体が問題であり、そういった意味では何を基準に判断したらよいのか、一から考える必要がある費用ということになります。

3.3.事業売却が決まっていたため、改訂せず

結論から言うと、この車両費に関しては何も手をつけませんでした。何故かというと、D事業部は貢献利益の時点で既に大赤字の構造で、一刻も早く事業を廃止をするか、もっと効率的に運営できる事業に売却できないかを並行して検討していたからです。

ヘタに内部を効率化していじってしまい新しい営業方法などに慣れてもらっても、もし事業売却などになれば、また新しい会社のルールでやってもらわなければいけなくなるので二度手間になります。そのため、このケースでは営業マン・配達の人への負担を考え手を付けない事にしました。実際に売却先自体は無事に決まりこの調査から約半年後に売却されました。実はこの時に車両自体は売却先からは「不要なので御社で処理してほしい」と言われたため、リース契約を一括解約処理をして300万近く特損が出る形とはなってしまいましたが、本質的な話ではないためここでは触れないでおくことにします。

本日は、「ルール上おかしい・ルールそのものがおかしい費用」に関して、地代家賃費・消耗品費・車両費の実例を例にとり、それぞれどのように費用を止めていったのかを説明しました。大切なのは止めることと、また止めることが急にできなくてもいつ対応を行うかを明確にして、忘れずに実行することが大切です。

別の記事で

・知らない費用

・状況・目的が変わっているのに契約を続けている費用

についても説明したいと思いますので、ご期待ください。

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