貢献利益の内訳を見て事業判断を行おう
赤字経営から黒字経営の脱却のために、部・課単位での貢献利益を求める手順は部・課ごとの貢献利益を出そうという記事で説明しました。業務改革の現場ではまずここで出された貢献利益をベースに、大まかな基本方針を立てます。
これは細かな業務改善などに取り組む前提となる基本方針を立てることです。そのために、まず「どのポイントで赤字になっているのか?」を把握する作業をします。この把握を行わないまま、いくら業務改善を行っても、ビジネスモデルの構造自体が儲からないビジネスである場合、何を改善しても無駄に終わります。こういった場合には、顧客・商品・販路・広告などのビジネスモデルの抜本的な見直しを図るか、あるいは事業撤退を決断しないと、労力がかかる割にはずるずると赤字が継続するという状態になります。
今回は、実際に私が直面したとある企業での赤字事業を元に、それらをどのように判断すべきか・したのかを具体例を交えながら説明したいと思います。
1.事業構造を数字上把握する |
1.1.売上(売上総利益)が上がる仕組みを理解する |
1.2.変動費(変動費率)を見る |
1.3.固定費(固定比率)を見る |
2.変動費の時点で赤字 |
2.1.事業撤退の決断が必要 |
2.2.未練を出さない事 |
3.固定費(固定比率)の時点で赤字 |
3.1.現状での損益分岐点を正確に求めておく |
3.2.期限を決めておくこと |
1.事業構造を数字上把握する
1.1.売上(売上総利益)が上がる仕組みを理解する
まずは、部・課ごとの貢献利益を出そうでも取り上げたA事業Dカテゴリ(病院向けサブスク事業)・C事業部Bカテゴリ(ペット飼い主向けEC通販事業)という、貢献利益時点で赤字であった、2つの事業を例にして説明しましょう。事業としては細かい勘定科目を省くと月次で以下のような貢献利益を出す構造になっていました。
単位:千円 | A事業Dカテゴリ (病院向けサブスク事業) | C事業部Bカテゴリ (ペット飼い主向けEC通販事業) |
---|---|---|
売上 | 1,715 | 3,640 |
売上総利益 | 1,715 | 1,133 |
変動費 | 37 | 1,145 |
固定費 | 2,872 | 376 |
貢献利益 | ▲1,194 | ▲388 |
A事業Dカテゴリは、病院向けサブスク事業を営んでいました。1つの病院につき月間10,000円をもらうというビジネスモデルだったのですが、この契約をした病院に対して還元ポイント率を上げたり、あるいは提携している商材を安く買えたりするようなビジネスモデルにしていました。新規成約数>解約数の状態を保てていれば、売上が伸びていく座布団方式のビジネスモデルで、主に電話での反響営業をもとに行われていました。
C事業部Bカテゴリは、ペットの飼い主向けのEC通販事業を営んでいました。この時の主力商品は犬用の薄型ペットシーツで、売上の90%がペットシーツ関連商品に依存していました。飼い主に激安で販売するために、中国のメーカーと直接OEM契約を結び船便で日本の指定倉庫に送り、そこからか顧客に送付するサービスで、主に楽天・Yahooショッピング経由で販売をしていました。
貢献利益だけを見ると、A事業部Dカテゴリ(病院向けサブスク事業)は貢献利益の段階で毎月100万円以上の赤字、C事業部Bカテゴリ(ペット飼い主向けEC通販事業)は38万円の赤字ですので、貢献利益だけ見るとペット飼い主向けEC通販事業の方が黒字化が近い、、、もうちょっと頑張ればなんとかなる様な気がします。
1.2.変動費(変動費率)を見る
上のような貢献利益だけを表面的に見ても事業の判断はできません。貢献利益が分かった後、何を行うかというとまず、売上総利益に対する変動費率(変動費÷売上総利益×100)を求めるのです。実際に売上総利益に対する変動費率を求めたものが以下の表になります。
単位:千円 | A事業部カテゴリD | C事業部カテゴリB |
---|---|---|
売上総利益 | 1,715 | 1,133 |
変動費 | 37 | 1,145 |
変動費率 | 2.1% | 101.0% |
A事業部カテゴリDは変動費率が2.1%ととても低い数字になりました。実際にここでかかっていた変動費というのは通信費だけで登録病院に対してメルマガを送付する中でかかった費用のみでした。
一方でC事業部カテゴリBは101.0%と100%を超す値となりました。ECですので送料に当たる運賃荷造費や、楽天・Yahooへの売上に連動した手数料である支払手数料、楽天・Yahooでメルマガを打つとかかる広告宣伝費などかかってきました。
売上総利益に対する変動費率が100%を超えている場合は、固定比率を求める必要はありません。
1.3.固定費(固定比率)を見る
変動費率を求め終わったら、次は固定比率を求めましょう。売上総利益に対する固定費率(固定費÷売上総利益×100)を求めるのです。実際に売上総利益に対する固定比率を求めたものが以下の表になります
単位:千円 | A事業部カテゴリD | C事業部カテゴリB(※参考) |
---|---|---|
売上総利益 | 1,715 | 1,133 |
固定費 | 2,872 | 376 |
固定費率 | 167.5% | 33.2% |
※C事業部カテゴリBは固定比率を求めなくて良いと書いたので、参考値です。
A事業部カテゴリDの固定比率は167.5%となりました。この部署の場合新規事業の為サブスクの案内をすする専用のコールセンター用の従業員を抱えており、その従業員の給料などの費用(人件費系)がほとんどを占めていました。
C事業部カテゴリBは参考までに求めたところ33.2%でした。実際この事業には人は専任では張り付いておらず、人件費などの配賦もほとんどない状態で、かかっているのは倉庫の費用負担などの固定費(減価償却費系)がメインでした。
ここまで求めたら、変動費の時点で赤字・固定費の時点で赤字を別に、判断を加えていきます。判断する順番は、変動費の時点で赤字・固定の時点で赤字の順番で行っていきます。
2.変動費の時点で赤字
2.1.事業撤退の決断が必要
まず、変動費の時点で赤字になっているC事業カテゴリB(飼い主向けEC通販事業)について考えてみましょう。
実際にこの事業は貢献利益を導入する前は「人手も専任でかかっていないし、利益は出ているはず」と社長は考えていました。ところが、いざ貢献利益を求めてみたら、変動費率が100%を超えていました。変動費率が100%を超えるということは、どれだけ売上を伸ばしても費用構造を変えない限り儲かるどころか赤字が膨らんでいくビジネスであることを示します。例えば売上総利益が2倍となっても、変動費は2倍に近い数字になるので、赤字幅がより拡大するだけなのです。
「そんなバカなビジネス実施するわけないだろう!」と思われる社長さんもいらっしゃるかもしれませんが、実際にこういった「ほとんど儲けが出ない事業構造に陥っている」事業は結構あります。代表例としては、まさにこのC事業カテゴリBのような、自前で集客が出来ず楽天・Yahoo・Amazonなどのプラットフォームに集客を依存しているEC通販などのケースです。プラットフォームを提供する楽天やYahooなどは、最初は無料や競合プラットフォームよりも安い手数料にして参画してくれるお店を集めますが、ある程度のお店が集められるようになった後は、自社の先行投資の回収のために、取り扱い手数料率をどんどん上げていくのです。手数料率も売上が高くなればなるほど手数料率が下がっていきますが、逆に言うと売上が落ちてくると高い手数料率になってきます。
過去の貢献利益なども求めてみたところ、C事業カテゴリBも、ビジネス開始当時は少なくとも変動費率が100%は超えておらず85%程度の割合でした。売上自体も、この事例の2年前の時点では月間1000万円程度と集計時の3倍近い売上がありましたし、各プラットフォーマーに支払う手数料率自体も低いものでした。それが2年間の間に、同じプラットフォーム上の同じようなOEMのペットシーツを販売する競合他社が増えるに伴い、売上がどんどん減少し、それに伴い手数料率自体も上がっていく負のサイクルに陥っていました。また実際にペットシーツを送る運賃荷造費の上昇も変動の上昇に影響を与えていました。ヤマトの個人向け小包の運賃値上などが話題になったことがありますが、法人用の荷物に関してもヤマトに限らず、佐川やその他の取引のある会社でも値上げを要請され、一律送料が20%アップなどになることもありました。こういった環境の変化もあり、C事業カテゴリBは最終的には変動費率が100%を超えるようになってしまったのです。
変動費率が100%を超えた時点でビジネスモデルとしては破綻していると言えます。ビジネス開始当初で改善の芽があれば別ですが、この事業は10年たってこれでしたので、復活の芽ははほとんどないといっていい状態でした。こういったケースでは、事業廃止をいち早く行ったほうがよいです。
ここで踏みとどまるのは基本的には止めたほうが良いです。もちろん赤字が拡大するという金銭的な痛みの側面もありますが、そこに携わる従業員が報われない努力をするという人の非効率の側面があるからです。先ほどこの事業では専任の従業員はいないと書きましたが、それでも関与が0%では運用できませんので、必ず誰かしらの従業員の労力は費やされることになります。そういった労力を設けの出る事業に少しでも振り分けたほうが、はるかに今後の黒字化においては有効となるからです。
もちろん事業をやめるには一時的な損は出るかもしれませんが、ずるずると赤字を垂れ流し続けるよりはマシですので、このように変動費率が100%を超えるなどのビジネスモデルが破綻している場合には、早めに決断するようにしましょう。
2.2.未練を出さない事
ただこの事業撤退というのは、社長さんといえどもなかなか決断としては難しいと思います。社長さんが自ら携わっていた場合には愛着もあるでしょうし、また携わっていなくても一定の粗利が見込めるからです。ただし、上でも書きました通り基本的に終わったビジネスモデルを存続させておいても、なにも良いことはありません。
仮に変動費が赤字の事業を存続させられるとすれば、それはビジネスモデル(顧客・商品・販路・広告)を変えられる場合のみです。ただし、言うのは簡単ですがビジネスモデルを変更するというのは、新しい新規事業を一つ立ち上げるぐらいの大変さがあります。
この場合でいうと、
・顧客を変更・・・ペットショップや動物病院などに売ることはできないか?
・商品を変更・・・ペットシーツ以外のOEM商品を売ることはできないか?
・販路を変更・・・直販で売ることはできないか?
・広告を変更・・・メルマガなどを打たなくても売ることはできないか?
を一つもしくは複数の組み合わせで考えていくことになります。
ただし、なるべくここは未練を出さずに早めに諦めたほうが良いです。結局上記を試している間も赤字は膨らんできそこに携わる従業員の労力もかかるので、それよりもまだ救いようのある事業に労力を傾けたほうがはるかに健全だからです。
3.固定費の時点で赤字
3.1.現状での損益分岐点を求めておく
変動費では赤字ではないけど、固定費が赤字のA事業部カテゴリDはどう判断すればよいでしょうか?この場合は現状の損益分岐点を求めて、少なくとも損益分岐点に到達するシナリオを描けるかがポイントになってきます。
なお、損益分岐点は、
・固定費 ÷ ( 1 - 変動費率 )
で求められます。
A事業部カテゴリDの場合ですと、
・2,872 ÷ ( 1 ー 0.021 ) = 2,933 (単位:千円)
が損益分岐点売上高になります。
これをビジネスモデルをおさらいするとA事業部カテゴリDは病院から月次で1万円をもらうビジネスモデルですから、月間の契約病院が293件キープできれば貢献利益の黒字化が達成できることがわかります。現在の売上が1,715(単位:千円)ですから、最低でもあと120件の病院契約が必要ということがわかります。実際には途中の解約などもあるのでその数はもっと多くなっている必要があります。
貢献利益の黒字化はあくまで通過点ですが、ここまで到達するシナリオが描けているかがポイントとなります。
3.2.期限を決めておくこと
そしてシナリオとして大切なのは、期限をきちんと決めておくことです。例えばこの例では120件の追加契約と書きましたが、果たしてそれをいつまでに達成できるのかを決めておきます。それも「2年後」とか悠長なモノではなく、3ヶ月後かどんなに遅くても半年の期限で達成できるかを考えましょう。結局のところ、半年かかってできないことを、2年後に目標を設定しても目標の先送りをしているだけで赤字がその間もどんどん膨らむからです。
そして現実的に考えて「損益分岐点を超すのは半年だととても無理」と社長さんが思うのであれば、即座に固定費を減らす、すなわち携わる人数を減らしたりそこでつかう費用を減らしたりなどで、貢献利益の黒字化を狙う検討に移ったほうが良いです。この事業の場合従業員4名で人件費系の固定費が2,647千円でしたので、少なくとも半分の体制にすれば人件費系の固定費も約1,300千円となり、 貢献利益ベースでは黒字となるなどの試算が出来るようになります。もちろん、余剰となった人員は改善や成長が見込める分野に配置転換してもらう必要がありますが、そのような決断を早めにすべきなのです。
本日は、貢献利益で赤字の事業をを売上総利益に対する変動費率・固定費率で見て、それぞれで赤字の時の決断の内容などを説明させていただきました。事業を共通の物差しで確認し、ぜひとも赤字経営から黒字化への脱却に役立ててください。
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