部・課ごとの営業利益を出そう

企業が赤字から黒字化への脱却の上で欠かせないのが事業部別P/Lの作成です。一般的にこれらの取り組みは税務署への申告が必要になる財務会計とは別に行うものですので管理会計と区別して呼ばれています。そして管理会計の第一歩となるのが部・課ごとの貢献利益を出そうという記事で「貢献利益を出すことである」と紹介しました。

今回は貢献利益からさらに進めて、最終的に事業を判断する際に必要な「営業利益」の求め方を説明します。営業利益が部・課ごとに月次で算出できるようになってくると、その組織が最終的に事業を継続しても良いのか・どうかをかなりの精度で判断できるようになります。

例によって、私が立て直しを行ったEC通販会社での事例を元に今回も説明をしたいと思います。貢献利益を求めた後で何故営業利益を求めなければいけないのか、そしてそれをどのように行っていくかをこの記事では説明したいと思います。

※事前に、「部・課ごとの貢献利益を出そう」の記事を読まれていることを前提としております。まだの方は読んだうえでこの記事へお戻りください。

<目次>

1.営業利益とは
1.1.何故営業利益を求めるのか
1.2.営業利益は貢献利益よりもさらに基準が厳しくなる
2.営業利益の求め方
2.1.出来る限り実態に近くする
2.2.関与具合が異なるものは、工数割合で決定する
2.3.関与具合が同じものは、従業員比・売上比で決定する
3.事業の最終判断は営業利益
3.1.事業をやめても他の事業の負担が増える
3.2.バックオフィス部門の人員削減を検討する

1.営業利益とは

「部・課ごとの営業利益」というのは、合算すると企業の財務会計で算出する営業利益と同じものとなります。ただし最終的に財務会計で求める営業利益と違うのは、事業部ごとにバックオフィス部門の費用を配賦するという点です。そのため、そこには経営者の判断が加わるといって良いでしょう。その意味では、私がここで説明する「営業利益」は、財務会計でいうところの営業利益とは別物だと思ってください。

イメージが湧きやすいように実際に私が作り上げた月次事業P/Lの営業利益をお見せします。

<月次P/L 営業利益>※部署名・数字名などは実際と異なるものをいれております

簡単に構成を説明すると、横軸に集計をしたい事業部、バックオフィス部門の部・課の単位を並べています。縦軸は売上・売上総利益と費用を集計したものを並べており、縦軸の売上総利益から費用を引いたものが貢献利益として設定しています。ここまでは貢献利益の求め方で触れましたが、その後で、事業部の貢献利益に対して、更にバックオフィス部門の部・課(緑色)の費用を限りなく実態に合わせて按分したものが営業利益となります。

1.1.何故営業利益を求めるのか

何故わざわざ、事業部別の営業利益を求めるのかというと、それは最終的な事業判断は営業利益を見ることでしか実施できないからです。事業部別の貢献利益を求めることで、その事業が「撤退すべき」「継続すべき」の一次的な判断はできますが、最終的には会社という組織で考えた際には、バックオフィス部門のシステムだったり、総務・人事・財務経理などのスタッフの人件費などもすべて、どこかの事業部が負担しない限り会社として成り立ちません。そのため、必ず営業利益までを事業部別に落としていった状態で判断しないといけないのです。

例えば、1つの事業部しかない会社でが事業部の従業員5名で貢献利益で月200万円の黒字状態だとしましょう。貢献利益ベースでは一見よさそうですが、この会社のバックオフィス部門に従業員15名いるとしたらどうでしょうか?少なくとも、バックオフィス部門の従業員15名分を月200万円の黒字でカバーするのは、普通に考えたら不可能ですので、このような企業はよほど持続的な資金提供でも受けていない限り、成り立たない事は明白です。

この例は極端ですが、こういった状態に陥らないためにも必ず最終的な事業判断は営業利益をベースとして行う必要があるのです。

1.2.営業利益は貢献利益よりもさらに基準が厳しくなる

貢献利益の記事でも説明したとおり、基本的に売上に連動する外部への支払費用は既に事業部に配賦されているため、基本的にバックオフィス部門で費用となっているものは人件費系がメインとなります。

営業利益は事業部の貢献利益に対してバックオフィス部門の費用を配賦たものですので、事業部を評価する場合、当たり前ですが貢献利益よりもさらに厳しくなります。このこのケースでいうと、バックオフィス部門の41,250千円を事業部に貢献利益ベースに対して、負担させるのです。

結果として、貢献利益の時点ではこの会社の場合8つの事業のうち3事業が赤字でしたが、営業利益でみると5つの事業が赤字となりました。

単位:千円A事業部カテゴリAA事業部カテゴリBA事業部カテゴリCA事業部カテゴリDB事業部カテゴリAB事業部カテゴリBC事業部カテゴリAC事業部カテゴリB
売上総利益152,9713,0482,6951,7157,5001,2244,5601,133
貢献利益83,7842,4071,546▲1,194862168▲2,061▲388
営業利益55,1361,9201,318▲3,293▲536▲2,892▲6,684▲711

この会社の場合、全体で40,212千円の営業利益ですが、A事業部カテゴリA~Cまでが、55,136千円、1,920千円、1,318千円と合計58,373千円と利益を出していますが、赤字の5事業で▲14,116千円の赤字が出ているため、全体の営業利益を押し下げていることがわかります。

2.営業利益の求め方

2.1.出来る限り実態に近くする

ここで貢献利益から営業利益の求めかた、すなわちバックオフィスの費用をどのようにして事業部に配賦していくかを具体的に説明したいと思います。対象となるのは赤字で囲った部分で、バックオフィス費用(メインは人件費)の41,250千円をどのようなロジックを構築して、事業部に配賦していくかが、営業利益を求める行為のほぼ全てといって良いです。

<拡大図>

いろいろな考えがありますが、私が一番おススメでこの企業でも行ったのが、「出来る限り事業部門への関与の実態に近い割方をする」というものです。いろいろな会社の管理会計を見る機会がありますが、事業P/Lをみていると、バックオフィス部門の費用を、売上総利益のパーセンテージに応じて配賦であったり、事業部の従業員比率で費用を配賦したりであったりなど様々なやり方があります。私がおススメしたいのは、可能な限り一つ一つのバックオフィスの部門の事業部への関与度合いの実態に応じて配賦することです。

ただし、あまりに正確に配賦しようとすると、逆に事業P/Lの作成に時間がかかりすぎるようになります。そのため、目安としては事業P/L作成に工数としてルーティン化したときに1日程度(=8時間)程度の工数を上限としたほうが良いです。それ以上かかってしまうと今度は「事業実態を把握したくて、事業P/Lを作っているのに、その作成工数に多大な時間がかかる」という本末転倒な状況になりかねません。

各バックオフィス部門ごとにその性質毎にどのように分割していくのかは事業P/L構築の際に決めますが、ルーティン化する際には事業P/L構築の際に決めたロジックを計算するFMTを作成しておき、毎月毎にそのロジックを適用して配賦額を決定していくのがおススメです。

<バックオフィス部門ロジック配賦資料>

この事例では、バックオフィス部門の費用を

A:社員人件費に応じた分担(人数割)

B:関与度合いに応じた分担(特別ロジック)

C:関与度合いに応じた分担(特別ロジック※コール数)

D:事業部の売上パーセンテージに応じた分担(売上割)

の4種類の配賦方法を取っております。1種類のロジックでエイヤーで割るのではなく、バックオフィスの部門ごとにどのやり方が良いのかを一つ一つ検討していくのです。ここでは、それぞれのバックオフィス部門をどのようなロジックで配賦を決定していったのかを説明します。

2.2.関与具合が違うものは、工数比で決定する

まずはバックオフィスごとに、事業部への関与具合表現できるものを分類してください。上の例でいうと配賦方法BとCとなるものです。この事例の場合は、実際にバックオフィス部門の事業部の対応をするためにかかった工数などで出すものはB、そしてBの中でもより詳細にコールセンターのコール数で分類できるものをCと定義し、まずその分類を行いました。

部署名費用のメイン配賦の考え配賦ロジック
システム部・開発課社内システム開発の人件費や業務委託費がメイン各事業部ごとの開発案件数に応じて配賦A事業部カテゴリA:60%
B事業部カテゴリB:30%
C事業部カテゴリA:10%
システム部・制作課社内の広告制作の人件費や業務委託費がメイン各事業部ごとの広告制作依頼工数に応じて配賦A事業部カテゴリA:60%
B事業部カテゴリB:30%
C事業部カテゴリA:10%
システム部・運用課物流倉庫運用にかかわる人件費がメイン各事業部ごとの倉庫利用割合に応じて配賦C事業部カテゴリA:30%
(倉庫Bを利用)
残りの70%を倉庫Aを使う事業部内での売上比率で配賦
(倉庫Aを利用)
コールセンター部コールセンター社員人件費(アルバイト含む)各事業部ごとのコールセンターコール数に応じて配賦(上記通り)

以下、どのようにロジックを適用していったのかを説明します。

システム部・開発課は社内システムを自社開発を行う部署でした。この場合本来は開発案件ごとの工数別に登録するのが理想的です。ただし、開発工数などは正確にこの会社の場合は取得できていなかったので、あまり細かな集計は期待できませんでした。そのため、10%単位で集計しようと決めて、開発課の管理職にヒアリングをし、事業部の案件割合費を算出しました。

システム部・制作課も社内の広告制作を行う部署でしたが、こちらも開発課とほぼ同じロジックで配賦しました。

システム部・運用課は物流倉庫A(事業部の5カテゴリで利用)・物流倉庫B(C事業部カテゴリAのみが利用)の運用をしていました。そのため、物流倉庫Bにかかわっている工数を30%とし、残りの70%を5事業の売上比で割るという配賦を行うことにしました。

コールセンター部はECの顧客からの問い合わせの一次受付先でした。この会社の場合全ての社内システムに全コールの内容・どのカテゴリの顧客かなどがリアルタイム集計できていたので、毎月システムからコール数のデータを出力し、コール起因のカテゴリ別で配賦するという方法を取りました。バックオフィス部門の中で、一番正確な配賦となっていました。

先ほど、「1日(=8時間)程度で完成させる」と書きましたが、本来時間的な制約を無視すればもっと細かくすることは可能です。例えばコールセンターの場合、事業部カテゴリ別のコール数で配賦するのではなく、事業部カテゴリ別のコール時間数(通話数や受注オペレーション数)で配賦するなどです。ただし、それをしようとなるとシステムから別途時間を算出して計算などしないといけなくなるので、非常に手間がかかることはあり、1日では終わらなくなってしまうことがわかりました。実態に応じた配賦をするのはもちろん理想なのですが、やりすぎて時間を使い過ぎてもしょうがないため、そこはいかに既存のシステムなどからデータ出力できるかなどの社内のデータの整備状況に応じて決定しましょう。

基本的にはバックオフィス部門は出来る限り、工数比で配賦するようにしてください。工数比で行うほうが基本は実態を一番反映するからです。

2.3.関与具合が同じものは、従業員比・売上比で決定する

事業部ごとに工数比で出せずに、言ってみれば関与具合が違わないものは売上比や人数比で決定します。上の配賦例でいうとAとDになっているものです。実際に事業部の従業員比で配賦したものがA、事業部の売上比で配賦したものがDとしていました。

部署名費用のメイン配賦の考え配賦ロジック
システム部・社内インフラ課社内インフラに関連する人件費や、クラウドシステム・ソフトウェアの費用各事業部ごとの売上比に応じて配賦売上割
財務経理部経理部の人件費や、経理部から出す請求書送付に使う費用各事業部ごとの売上比に応じて配賦売上割
人事総務部人事総務の人件費や、採用広告費用各事業部ごとの人数比に応じて配賦人数割
社内コンサル部社内コンサル部の人件費がメイン各事業部ごとの人数比に応じて配賦人数割

以下、どのようにロジックを適用していったのかを説明します。

システム部・社内インフラ課はネットワーク・インフラ・社内PCを整備する部署でした。この部署では人件費の他にクラウドシステムや社内インフラのソフトウェアの費用などを負担していました。売上割をするのと人数割をするのとどちらが良いかと考えたら、売上割の方が相応しいので売上割にしました。

財務経理部は財務・経理、後は請求書のイレギュラー送付などを運用していた部署でした。毎月利用するお客様が約9000いましたので、毎月の請求書の送付費用などもこの部署で費用負担をしていました。この場合も基本は請求書の費用などは売上に連動するため、売上割にしました。

人事総務部は人事・総務・法務業務を行う部署でした。こちらは特に特定の事業部に対しての活動はしていないので事業部の従業員比である人数割にすることにしました。

「出来る限り事業部門への関与の実態に近い割方をする」の例外となったのは社内コンサル部でした。社内コンサル部は、全社の業務改革や不採算部門の改善、特命ミッションを担う部署で私が組織長を務める部署でもありました。本来は支援で入っている不採算部門に費用負担を求めるべきですが、それだと事業P/L上さらに赤字となるため、本来援助を必要としている事業部が支援を拒んでしまうなどの懸念がありました。そのため、こちらは社長の判断で人数割としました。この社内コンサル部だけは、事業部門への関与の実態とは離れた形になっています。

3.事業の最終判断は営業利益で

3.1.事業をやめても他の事業の負担が増える

このようにバックオフィス部門ごとにどのように事業部に関与しているかで配賦のロジックを変えていくということを説明しました。

ここで思い返していただきたいのですが、事業部カテゴリごとの営業利益は合算すると会社の営業利益とイコールとなる点です。バックオフィスの特徴としては人件費がメインですので、事業部をひとつ廃止したとしても何もバックオフィスの人員構成等をいじらなければ、他の事業部の負担が増えて終わりです。

事業部の最終存続の判断は営業利益でする必要がありますが、事業部がへったりするとその分事業部の負担が増えますので事業部外の要素も絡むという事を覚えておきましょう。そのため、急に黒字から赤字になっても一喜一憂をせずに長期的に考えていくなどの視点が必要になります。

3.2.バックオフィスの人員削減を検討する

最終的に営業利益の判断の際には、バックオフィスの適正な人員数というのも同時に行う必要があります。営業利益が赤字の場合には、バックオフィス部門に人がいすぎるというのも理由になるのです。特に、企業運営が長引けば長引くほど、人員削減などを行わない限りどんどんバックオフィス部門は肥大化していきます。

そのため事業部を廃止する際には、必ずバックオフィス部門の人員削減も一緒に検討するようにしてください。バックオフィス部門の人員削減をせずに事業部の廃止をしてもより事業部が高コスト体質となるだけなので、かならず事業部の規模や業務に応じて、バックオフィス部門の人員を削減するということを忘れないでください。

本日は、貢献利益をベースとして営業利益をどのようにして算出するのかを、各バックオフィス部門ごとに根拠を元にした配賦というものを説明しました。事業P/Lを運用して、自社の構造をぜひ見える化して、事業廃止や改革の進捗にご活用ください。

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