即改善業務フロー:ダブルチェック業務
赤字経営になる要因は、費用面から突き付めると、内部要因と外部要因の2つに集約されます。内部要因は、過剰業務を行っておりそれに伴い、過剰人員となっていること、外部要因は過剰コストをかけていることなどがあります。ところで、内部要因で「過剰業務」と書きましたが、赤字企業において共通しているのは、「過剰業務であると気づけない状態」に陥っているということです。
「過剰業務であると気づけない状態」ことがわかる、典型的な業務フローというものがあります。それはミスの対策として行うダブルチェック業務です。こういったダブルチェック業務は、品質を上げるようで一見合理的ですが、現場主導で行っていくと徐々に仕事量を増やしていき、気づいたときには事業部内で売上に貢献しない業務を増やしたり、バックオフィスの肥大化などを産み出す要因となります。
今回は、病院向けのメールDM発送業務でで行われているダブルチェック業務を例にとって、ダブルチェック業務は具体的に何がいけないのか、どのように対応すればよいのかを説明したいと思います。
<目次>
1.ダブルチェック業務とは |
1.1.ミスが発生したときに追加する業務 |
1.2.同僚・上司のチェックを入れる |
2.ダブルチェック業務の何がダメなのか? |
2.1.工数が二重にかかる |
2.2.担当者の責任意識が無くなる |
2.3.根本的に業務の性質を把握できていない |
3.ダブルチェックに代わるもの |
3.1.システム化・自動化をする |
3.2.運用施策を行う |
1.ダブルチェック業務とは
1.1.ミスが発生したときに追加する業務
ダブルチェック業務のわかりやすい例として、実際に私が赤字から黒字化をする上で携わった事業での「病院向けにメールDMを送る業務」を例にとって説明しましょう。この業務は販促のためのメルマガを、社内の顧客管理DBを用いて情報を抽出しそのデータを元にトライコーンという外部システムを使用して送付するという方法を取っていました。この業務の業務フローの流れは以下の通りとなっています。
<病院向けメールDMの業務の流れ ※人名は架空のものですが実際に行われていた業務フローです>
典型的なダブルチェック業務の一例です。この業務の流れを見ると、愛さんと福島さんという二人の担当者で業務が行われていることがわかります。この業務の主担当者が愛さんで、STEP1でメールDMの送信先になる顧客情報のデータを生成し、STEP3で顧客情報のデータのアップロードと実際のメールDMの文言・送信日時などを設定します。一方福島さんの業務は、STEP2で愛さんが作ったファイルの妥当性のチェックや、STEP4でMLシステムでの設定された内容・メール文言のチェックを行っているサブ担当者的な役割です。ダブルチェックというのは、ここでいう福島さんの業務のように、主担当者が作成したアウトプットを、別の担当者がその妥当性を検証するためにチェックのみをすることを指します。
この事業部では元々は病院向けメールDMを送る際には、STEP2とSTEP4の業務は行われておりませんでした。つまりSTEP1、STEP3、STEP5のみの業務だったのです。しかし、半年ほど前に愛さんがこの業務を実行後、数件の病院から「メールDMは止めてほしいと言ったはずだがどうなっているのか?」と、クレームが発生しました。調査してみたところ、STEP1において 顧客DBの情報を抽出する際に、誤ってメールDM拒否の顧客郡もメールDMの対象顧客として抜き出してしたことが明らかとなりました。結果としてその誤りに気付かず本来メールDMの対象でない顧客郡にメールDMが送られていたのです。この後事業部内で対応策を検討した結果、人のミスは完全に防げないので、STEP2とSTEP4で主担当者とは別にダブルチェック業務を行うことでメールDMの品質を高めミスが発生しないようにすることが決定され、業務に追加されました。
1.2.同僚・上司のチェックを入れる
ダブルチェックをする際には、同じ事業部の同僚の福島さんが担当することになりました。なぜなら、福島さん自身も愛さんとほぼ同じ業務を担当しており、メールDMを打つことがあるので業務を良く把握している為です。そのように業務を理解している人物であれば、STEP2・STEP4で愛さんがミスをした場合でも気づけるだろうという発想からでした。
また、主担当者が福島さんになる場合には、愛さんがダブルチェック担当者としてSTEP2・STEP4の業務を行うことになっていました。このように主担当者一人に責任を持たせるのではなく、常に主担当者とダブルチェックをする担当者の2名体制で業務を進めることで業務品質を上げることを意図し、ダブルチェックフローを加えたのです。
このダブルチェック業務をいれて以降は、ダブルチェックの業務の成果なのかこのようなメールDMの抽出発送ミスは無くなりました。
私自身、様々な企業でダブルチェックが行われている事例を見てきましたが、すべてのケースで主担当者よりも多少業務に熟知した同僚やあるいはその業務に詳しい上司がチェック担当者として業務に当たっていました。このようにダブルチェックは同じ部署の同僚・上司がチェックに当たることになるのが特徴です。
2.ダブルチェック業務の何がダメなのか?
2.1.工数が二重にかかる
品質も上がるし、結果としてクレームの発生も防げているダブルチェック業務の何だダメなのでしょうか?ダメな理由を、3つの理由とともに説明したいと思います。
まず一つ目は、単純に工数が二重にかかってしまうからです。
もちろん主担当者と比較して同じぐらいの工数がダブルチェック担当者に発生するわけでは無いですが、実際にSTEP2・4においてどのような業務の流れで行っているのかというと、
■STEP2の詳細(※主語はダブルチェック担当者)
・主担当者にどのような目的でメールDMを行うのかを確認する。
・ヒアリングした目的に沿って、SalesForce上の抽出された条件を確認し不整合が無いかを確認する。
疑問が発生した場合には再度主担当者に抽出条件の意図を確認する。
・チェクリスト(常に同じものが存在)に沿って、CSV情報を確認する。チェックリストと不整合が生じた場合には、主担当者にその旨を協議し、やり直しを指示する。
■STEP4の詳細(※主語はダブルチェック担当者)
・メールDMの文面に誤字・脱字や、設定ミスなどがないか確認する。
・STEP2で確認した顧客リストがアップロードされているかを確認する。
・設定情報にミスがないかを確認する。
のように、それなりに集中してやる業務となり、片手間ではできない内容です。この業務量が単純に純増しているのがまずダブルチェック業務のよくない点です。
また、工数が増加になることの裏返しでもあるのですが、本業務が増加となる分福島さんが本来事業部内でやるべき売上を上げる行為に割くべき時間がダブルチェック業務をやることで少なくなることも見逃してはいけません。事業部は売上を上げることが第一の目的ですが、今までと同じ売上を上げるためには業務工数の時間が増えた結果、人数を増やさないといけません。このように結果として、コスト増になることにつながるため、ダブルチェック業務はお勧めできないのです。
2.2.担当者の責任意識が無くなる
2つ目は、主担当者の責任意識が無くなるからです。
メールDMの例でいうと、確かに最終的に「メールDMを拒否している病院にメールDMを送ってしまう」というミスは発生しなくなりました。ただし、そのような表に出てくるミスでなく、実はダブルチェック時に引っかかるようなミスはいくつも発生していました。記録があるだけで半年で、
・顧客DBの抽出条件が想定と異なっていた
・メールの文言に単純な「てにをは」のミスがあった
などが発生してその都度防がれていました。これは「何かミスをしてもダブルチェックで後から気づけるの」という安心感が愛さんにできてしまい、本来自分で気づけるようなチェックも怠ってたことに起因します。本来は外部に影響のあるミスを撲滅するためにダブルチェックを入れたのですが、皮肉なことに「後で誰かが気付く」という安心を得たことで、主担当者の業務品質が落ちる事象が発生したのです。
2.3.根本的に業務の性質を把握できていない
3つ目は、根本的に業務の性質を把握できていない点を覆い隠すからです。
そもそも「メールDMを送る際に、メールDM不可の病院も抽出してしまった」という反省から始めたダブルチェック業務ですが、なぜ「メールDM不可の病院を抽出してしまったのか?」という考察を深くせぬまま、ダブルチェックを対応施策としていました。
半年前のミスの対応策としてダブルチェックをしなくてもいくらでも回避策があったはずです。例えば、
・事業部向け教育の中に「過去に発生した」ミス内容などを組み込み教育でカバーする。
・SalesForceのメールDM施策の汎用条件式を登録しておき、その汎用条件式のコピーでない限りメールDM施策は実施不可とする。
・そもそもメールDM不可の顧客を表示対象外とする(システム改修必要)
などの様々な対策が、単数もしくは複数のうち手で実現することが本来は可能だったのです。これらの施策を検討もせずに、安易にダブルチェックに走ることが問題なのです。ダブルチェックは品質向上という点をもたらすため誰もが賛成しやすいですが、その実は内部工数を増やして品質を向上させるというある意味当たり前の施策といってもよいのです。
もしダブルチェックを行うのであれば、業務の性質上どうしても行わなければいけないなどの場合をおいては行わないほうが良いです。もちろん企業によってその基準は異なるでしょうが、目安として
・人命にかかわる
・数千万単位の損害が出る
などの基準を設けてその基準に満たない限りはダブルチェック業務は実施ないなどにするのです。上記の事例ではミスの結果として「メールDM拒否の病院からクレームが来たことが複数件発生した」と書きましたが、そこで早々と思考を止めるのではなく、基準に照らし合わせて「取引のある病院が取引を止めてしまい、数千万単位の損害が発生したのか?」という観点で見直すことができるようになります。結果としてはそのようなことはなく、クレームが入っただけで別事業の取引は通常通り続いていました。
基準に照らし合わせると本件はダブルチェックを設けるような業務ではないことが分かります。ダブルチェックという安易な対応策をとることにより、業務の影響度合いを隠すことになるので、ダブルチェックは良くないのです。
3.ダブルチェックに代わるもの
3.1.システム化・自動化を行う
ではダブルチェックに代わるものは何でしょうか?
まず上に書いたように人が行うことは必ずミスを起こす可能性を秘めています。そのため、システム化や自動化などによりその可能性をゼロにするということが考えられます。
例えば実現度合いは工数感に比例しますが、
・抽出業務自体をシステム化する
という発想があります。
簡単なものでメールDM拒否のものを抽出の対象外とするなどのロジックを組んでおくなどです。これを行えばそもそもメールDM拒否の病院がリストに出てくることはなくなりますので、メールMD拒否の病院にメールDMが送られることは絶対におきえません。そのため、主担当者はメールDM拒否などの存在を気にする必要もなくなり、もちろんダブルチェック業務自体も不要となります。
3.2.運用施策を行う
次に、システム化・自動化を行わなくても運用施策で対応するというのが考えられます。
例えば、事業部に新しい人員が入るたびに異動者への教育として
・メールDMを発送する際にはこのようなミスが過去発生し、このような影響が出たのでXXXを行うように
などを行うことです。
システム化などのように完全ではありませんが、教育の場で行うことでその工数を最小限に抑えるなどです。特に「ダブルチェックを行うほどの業務ではない」」と判断した施策に対してはこのような再発防止策は有効となります。
今回はダメな業務の例として、メールDM発想の際のダブルチェック業務を例にダブルチェックをすることになった経緯と、ダブルチェック業務がダメな理由とどのように対処をすればよいのかを説明しました。まずは社長さんの社内を見回しダブルチェック業務が存在しないか確認してください。存在する場合にはダブルチェック業務を無くした時の損害を具体的に検証すれば、その大半は「ダブルチェック業務を行うに値しない」ことがおのずと判明すると思います。ダブルチェックに使う工数をぜひ他の事業を成長させるための工数に利用してください。
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