総勘定元帳を元に費用を削ろう-状況・目的が変わっているのに契約を続けている費用・編-
企業を赤字から黒字化させる上で総勘定元帳を元にした削減計画を立てることを、総勘定元帳を元に費用を削ろう-全体編-で説明しました。その中で大切な削減費用の候補を出すうえで、
・知らない費用
・ルール上おかしい・ルールそのものがおかしい費用
・状況・目的が変わっているのに契約を続けている費用
という観点でチェックをすべきということを書きました。今日は 「 状況・目的が変わっているのに契約を続けている費用」 の具体的な実例を説明したいと思います。どのような費用をどのような観点で洗い出したのか、そして削減に向けてどのように裏取りをして交渉をしていったのかを、実例を元に説明したいと思います。
改めてですが、費用というのは何らかの目的に従って支払われています。ここで注意すべきなのは、その決定をした時の自社の商品・財務・広報・店舗展開などの状況や、競合企業、それに顧客や取引先、株主や従業員の状況などは常に変化をするということです。それ故、変化の内容によっては、ある決定をした半年後にはその決定自体が意味のなかったものとして、変える必要性が発生する場合もあります。
では早速具体的にどのような費用があったのかを、私が携わったEC通販事業を例として説明したいと思います。
<目次>
1.事例その1.福利厚生費 |
1.1.黒字時代の節税対策の生命保険 |
1.2.裏付けを取る |
1.3.年間1500万円の費用をやめることを実現 |
2.事例その2.旅費交通費 |
2.1.毎回余らせる新幹線回数券 |
2.2.裏付けを取る |
2.3.年間100万円の費用を削減することを実現 |
3.事例その3.顧問料 |
3.1.開発体制が脆弱だったころのIT戦略サービス |
3.2.裏付けを取る |
3.3.年間360万円の費用を削減することを実現 |
1.事例その1.福利厚生費
1.1.黒字時代の節税目的の生命保険
どの会社でも必ず見直してほしいものの一つが福利厚生費です。その内容が従業員規程にに定めている場合もあるでしょうし無いものもあります。具体的に約束している場合には「不利益改定」になってしまうので、裁判などを起こされるとなかなか厳しいのですが、そうならない限りは積極的に見直すべきものが埋まってることが多いです。
ここで社長さんに見直してもらいたい一番大きなものは生命保険を利用した節税施策です。特に前任の社長などが、「黒字の時代に節税目的も兼ねて契約した生命保険契約」などは要注意です。そもそも大前提として、現状赤字で税金上まったく何の恩恵も受けていない企業の場合、そもそも節税をする意味が無いのですから特になるような生命保険は存在しません。また、実際に得をする場合でも節税目的が強ければ強いほどその効果は「XX年後」などに限定されます。さらに「加入X年後に解約をしないと徐々に解約返戻金で損をするような仕組みになっている」にも関わらず、その事実が社長さんに引き継がれておらず、損をする事例もあるのです。
この企業の場合にも、従業員向けに2種類の生命保険契約が存在していました。
NO | 摘要 | 費用負担部署 | 貸方 | 借方 |
---|---|---|---|---|
福利厚生費1 | XX生命社員保険料(損金算入分) | 人事総務部 | 910,140 | 0 |
福利厚生費2 | ○○生命社員保険料(損金算入分) | 人事総務部 | 255,376 | 0 |
福利厚生費1は外資系生命保険の契約で2年ほど前から前任の社長が導入を決定した保険でした。一方、福利厚生費2は国内大手生命保険会社の契約で福利厚生費1の契約の前まで取引のあった生命保険会社で、入社年次が古い社員が契約継続の対象となっていました。双方とも養老保険というもので、損金算入率は50%となっていました。つまり事業P/L上は併せて120万円/月近い費用が発生していますが、実際のキャッシュではその倍の240万円が毎月保険会社に支払われていたのです。
この保険の目的としては、従業員向けには、退職金と万が一在籍時に死亡した場合の家族へのお見舞金と説明していましたが、大前提として契約当時このEC通販企業が黒字だったため、節税効果を主目的とした契約であったことは言うまでもありませんでした。
1.2.裏付けを取る
二つの福利厚生費の目的が、退職金と在籍死亡時の家族へのお見舞金と書きましたが、社内規程上この2つは
・退職金 ・・・給料・役職に応じて1万円~3万円/月を在職月数をかけて支払。ただし、在籍満3年未満は退職金を支払わない
・お見舞金・・・在籍時死亡すれば家族に300万円支払
というように定められていました。
実際の退職金とお見舞金の運用でいうと、退職金に関しては人の入れ替わりも激しく平均して一人当たり退職金は60万円程度でした。またお見舞金に関しては、会社が発足して以来適用されたケースが無いことまで確認できました。経理上は、退職金引当金準備額などは生命保険の支払いを行っている為、特に積み立てていないことがわかりました。
この会社の場合退職者が出るのは2~3ヶ月に1人~2人出る程度ですので、どんなに多くても60万円/月を見込んでおけば充分です。一方、生命保険で月に240万円キャッシュを支払っているので、その程度の退職金はそもそも生命保険を解約すれば問題なく支払えることがわかりました。
そこまで確認できたので、今度は保険会社に解約を今すぐにした場合に解約払戻金がどれだけ戻ってくるのか確認したところ、
・XX生命保険・・・払込生命保険料の約10%~50%が戻ってくる
・○○生命保険・・・払込生命保険料の約70~95%が戻ってくる
ことがわかりました。
1.3.年間1500万円の費用をやめることを実現
大方針としては、黒字化することがまずは必須でしたので、両方の生命保険契約を解約することにしました。○○生命保険・XX生命保険の両者の営業担当に連絡をして、メールで解約の申出の記録を残しつつ全契約の解約の申込を行いました。この時に○○生命保険(日本系大手)は私が申請を行い迅速に対応いただいたのですが、XX生命保険(フルコミッションで有名な外資系保険会社)は
・メールで解約の手続きを進めるよう依頼しているのに、営業マンが解約の申出を無視する
という行動を2回も取られ、かついきなり解約を申請している私ではなく、社長さんに個別に解約を思いとどまるように連絡をしたりアポイント依頼をされるという引き延ばし策をされました。こちらは断ってもらいましたが、埒が明かないと思ったので、先方のXX生命保険の本社にクレームをいれて、話を進められる担当の方(=その営業マンが所属する支社の支社長)を紹介してもらい、解約にこぎつけました。
社長さんも過去の営業マンとの付き合いや解約払戻金などを考慮し契約を続けたくなります。ただしここで思い返してほしいのは、本来の目的です。本来の目的は節税でしたので、黒字の時ならまだしも赤字の時には何の効果も出ないばかりか、毎月無駄なキャッシュを垂れ流すだけです。また、社長さんの頭の中に、「○○ヶ月経ってから解約すると解約払戻金で得になる」など悩み事を残しておくというのは得策では無いので解約払戻金で損になっても、スパッと解約しましょう。これにより圧倒的なキャッシュアウトや事業P/Lの改善に効果が出ます。
結局、この企業のケースでは生命保険の解約だけで年間1500万円の費用・3000万円のキャッシュアウトを削減することが出来ました。もちろん、退職金引当額を引き当てる必要性が生じましたが、解約払戻金で十分まかなえる額で、加えて月の変動として月30~50万円程度を引き当てておけば良くなる程度でしたので、その効果は絶大でした。
2.事例その2.旅費交通費
2.1.毎回余らせる新幹線回数券
次は旅費交通費の例を取り上げましょう。このEC通販企業は東京拠点・静岡拠点(以前の買収先)という2拠点体制でやっていたのですが、その拠点往復間の回数券の購入費用というものが旅費交通費に含まれていました。
NO | 摘要 | 費用負担部署 | 貸方 | 借方 |
---|---|---|---|---|
旅費交通費1 | 新幹線回数券(東京⇔静岡) | 人事総務部 | 325,333 | 0 |
当然ながら、1回1回従業員が個別に予約をするよりも、総務などでまとめ買いをした方が新幹線の1回あたりの費用は減ります。この企業では、3年前の静岡の企業の買収の時から従業員が気を使わず拠点間を行き来がしやすいように、回数券を準備し各現場の上長の許可があれば使えるような状態にしていました。また当時は費用の精算処理などは毎回エクセルFMTに入力する形で行われており、各従業員の手間となっている現状がありましたので、回数券を導入することで従業員の精算処理の手間を削減するという目的ももっていました。
回数券は2ヶ月に1回ほど人事総務部がまとめて購入しておりましたが、導入当初とは異なり出張が回数券導入当初ほど頻繁に行われていたわけではありませんでした。そのため人事総務部では回数券の期限日となると、毎回「どなたか出張で必要な方いらっしゃいますか?」と社内で声をかけるような状況となっており、回数券の期限切れとなることも度々発生しているような状態でした。
2.2.裏取り
実態を確認するために、人事総務部で管理している回数券の引き渡し記録を元に過去の利用状況を確認してみることにしました。
まず総量に関しては、回数券を導入した3年前と比較すると出張に使用する回数券の数は約半分程度に減っていることがわかりました。そして、回数券を使用している部署を調査したところ、東京⇔静岡で往復する必要性のある事業部・バックオフィス部門の社員に限られておりました。送料や使用部署を見る限りは、さすがに出張の必要性のない部署が私的に出張するなどのケースはありませんでした。
次に利用した人物にどのような目的で出張をしているのかを確認しました。そうしたところ、月に2回ほど、特定の上司と部下数名で出張している。というケースが2部署で見られました。双方の事業部長に確認したところ、はっきりとは言いませんでしたが、どうも回数券も余っていることもあり、定例などを月次で入れて東京・静岡の従業員で飲み会なども兼ねて出張してることがわかりました。
2.3.年間100万円の費用を削減することを実現
これらは本当に必要な出張かというと疑問符が残るものでした。社内でテレビ会議などの仕組みは揃えていたので、通常は拠点間でMTGをする必要があった場合には、テレビ会議をすれば解決できるからです。
また回数券導入当時とは目的が変わったこととして、既に経費精算に関してはクラウドのシステム(楽々精算)を導入していたので、わざわざエクセルで面倒臭い申請をする必要が無くなっていました。エクセルの際には、路線図などをWEBで調べてその金額を打ち込んでいましたが、クラウドのシステムを導入して以降は駅名をいれれば自動で路線などを計算してくれることになったので、精算業務自体は従業員にとってかなり楽になっていました。
このように、回数券があるからこそ不必要な出張をする可能性があることと、廃止後も従業員の手間にならないよう経費精算システムを整備していたので、総務が一括購入する回数券自体を廃止することにしました。
<決めたこと>
・回数券は購入しない。出張は各自が手配をする。
・片道100キロを超える出張をする際には、上記クラウドのシステムで事前申請&承認を得ていることを必須とする
結果として、これは1年経ってから判明したのですが、この企業の1年間の出張費用が年間180万円から80万円と約100万円削減することが出来ました。回数券が無くなったため本当に必要な従業員だけが出張に行くようになったのです。回数券が特に許可もいらず、手軽に利用できるという状況があると、あたりまえですが出張へのハードルが低くなっていたのです。もちろん、必要な出張ならばよいのですが、会社が赤字の時は本当に必要な出張に絞りたいものです。これにより、人事総務部の回数券購入の業務がまるまるなくなりましたし、かなり良い判断と言えました。
3.顧問料
3.1.開発体制が脆弱だったころのIT戦略サービス
最後に、顧問費の例を取り上げましょう。総勘定元帳を元に費用を削ろう-知らない費用・編ーでも顧問費については書きましたが、当初の目的と変わってきたものとして、毎月支払っている技術顧問料(IT)がありました。
NO | 摘要 | 主管部署 | 貸方 | 借方 |
---|---|---|---|---|
顧問料1 | 技術顧問料(IT) | システム部開発課 | 300,000 | 0 |
顧問料1は、前任の社長が、以前働いていたEC通販企業で同僚であった人が独立して起こしたITコンサル会社と結んでいるものでした。当初の目的としては、このEC通販企業のIT戦略の立案でした。当時、システム部では社内開発を行っておりプログラマーも数名在籍していましたが、都度都度の部分最適な開発になっており、会社の課題をとらえたうえで、IT戦略の立案などを行う人材などはいない状態でしたので、このITコンサル会社に依頼をしていたのです。
契約は顧問契約になっており、ITコンサル会社の人は常駐などはしておらず、月に1度訪問して開発メンバーや社長と議論をするという形で進めていました。ただ、1年前に契約をしていたにもかかわらず、会社の現状を踏まえたIT戦略案などのアウトプットはでていないような状態でした。ただ、なんらかの仕事はしていそうなので、目的などが変わっていないのか確認することにしました。
3.2.裏取り
もちろん現在の社長さんは実態を分かっていなかったので、システム部の部長にヒアリングをして、実態を確認しました。すると、以下の事が判明しました。
・ITコンサル会社は社長一人で運営ししており、基本はその社長さんとやり取りをしている。
・当初IT戦略立案などをやっていただけるということであり現状のIT課題のヒアリングなどもされた。その後、システムのグランドデザインのようなものが出てくるのかと思っていたが、個別課題の開発環境の整備をしないといけないという結論になった。それ自体は前任の社長とは合意済のようだ。
・開発ツールなど入れ案件状況や対応状況を測定するるように言われたが、メールで指示をするだけで協力はしてもらえない。自分がやらなければ進まないような状況だが単純に時間が取れないため放置してしまっている。
・現在そのITコンサル会社の社長は月に一度すら来ることは無くなり、連絡はほぼとっていない。
とりあえず、前任の社長の合意の元ITのグランドデザインのようなものではなく、個別開発課題(開発環境の整備)にフォーカスが移っていることがわかりました。ただし、その個別課題は当方都合により解決しないものになっていることがわかりました。
その上でシステム部の部長に、「開発環境の整備に意味があると感じているのか?」と聞くと、
・現状は開発自体が成り立っていることもあり、正直意味は感じていない
事がわかりました。
3.3.年間360万円の費用を削減
もちろん、前任の社長がいる状況でしたらこのまま開発環境の整備を無理にでも進めたのかもしれませんが、前任の社長はもういないですし現在の体制ママだと解決不能な状態でした。しかもこちら側の社長のも変わり「なぜ開発環境の整備が重要課題で一番にやらなければいけない事なのか」を答えられる人が誰もいなくなりました。
こういった状況からこれ以上IT顧問契約を続けても得られるものは少ないと判断しました。契約書を確認したところ、1ヶ月前告知で自由に解約できる内容であったため、「こちら側の対応リソース不足」を理由に解約をお願いし了解いただきました。これによる費用として年間360万円が削減できました。もちろん「開発環境が悪いのを放置しても良いのか?」というのはもちろん良くは無いです。ただし、物事には優先順位というのがあるので、まずは赤字を止めることが先決で、理由がよくわからない開発環境の整備はどうしても優先度が低くなります。このようにして優先度をぶらさないようにしながら削減を行っていきましょう。
本日は、「状況・目的が変わっているのに続けている費用」に関して、福利厚生費・旅費交通費・顧問料の実例を例にとり、それぞれどのように費用を止めていったのかを説明しました。
今回の説明で、
・状況・目的が変わっているのに続けている費用(当記事)
に関しての詳細をすべて説明をすることが出来ました。
くどいですが総勘定元帳を元にした費用削減は短期間で効果の高い方法なので、ぜひとも赤字に苦しむ社長さんには取り組んでほしい内容となります。ぜひ取り組んで、会社を黒字化へと導いてください。
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